2021年06月08日【指定なし】悪魔/ミカン/荒ぶる高校 (888字を/26分で)



 悪魔にも冬休みがある。直に帰り、暖かいおこたでおみかんを食べるのが習わしだ。素朴に見えて、この休息は悪魔の力を高める上で重要な役目がある。体を休めている間は、近くの外で能力を高めるための活動が活発になる。わかる範囲に割いていた労力がなくなり、全てのエネルギーを成長に回せる。


 一方で悪魔を忌み嫌う文化圏がある。健全な成長を憎み、人間を惰弱なままに維持し、都合のいい労働力として使役する。幼少期の環境は特に重要となる。成長しないのが当たり前だと思い込んでいる限り、自らに疑問を持たず、成長を嫌い続ける。疑問が少ないほど人買いからの評価が高い。


 アルファは悪魔側の刺客として、アラブリング高校の数学教師として赴任した。見るもの全てを分解し、どんな要素を組み合わせているかを探究する。鉄骨を組む時に三角形を作るとか、席の配置を三角形にするとかを語って、生徒に目を与える。別の悪魔の元へ誘導するのがアルファの役目だ。


 学年一つには七〇人前後が集まっている。毎年、八人前後が別の悪魔の元へ向かったと知らせを受ける、割合は十パーセント強で安定させるのはアルファの技量だ。他の新米教員と比べると、アルファ一人で四人分以上の成果を出している。


 評価基準を持たない者は、十パーセントの価値がわからない。これも悪魔狩りからの隠れ蓑となっている。成果の九倍もの漏れがある。しかし送り出した八人が活動するたびに、成果はじわりじわりと広がっていく。今すぐでなくてもいい。引っ掛かりとしてどこか一つでも覚えていれば、後からでも悪魔が入る余地がある。


 悪魔は失敗に寛容だ。悪魔でない教員による、些細な言い間違いを論って鞭を打つ姿を見ると、悪魔教員が乱入して追い返し、打たれた者の傷を癒す。続いてこれ以上の失敗を防ぐための具体的な方法を与える。これも悪魔が信徒を増やすための一手だ。


 悪魔祓いは集団行動で悪魔と対峙する。個々の能力では勝ち目がないとよく知っている。一刻も早く悪魔を根絶やしにするため、今日もあちこちで策謀を練っている。時と共に、かつて自分たちが悪魔と呼ばれていた頃と同じ手段に収斂していた。



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