第30話 可愛いライバル

 どういうこと!?

 なんで三ツ井さんはこんなにくっついてくるわけ!?


 私の頭はパニック状態だ。

 三ツ井さんが丹後くんを狙ってるのは明らかだった。

 だからそうはさせまいと私もカラオケに参加させてもらった。


 それなのに三ツ井さんは丹後くんより私にべったりで、しかもすごく優しい。

 三ツ井さんってこんなにいい人だったんだ。

 変なライバル意識を持っていた自分が恥ずかしい。


 でも三ツ井さんが時おりチラチラと丹後くんを見ているのは気付いている。

 いくらいい人だからって丹後くんを譲るつもりはない。

 そもそも私の方がずっと前から丹後くんのこと好きだったんだから!


「ねぇ安東ちゃん、今の曲なんていうタイトル? 聴いたことあるけど思い出せなくて」


 邪気のない笑顔に怯みつつもタイトルを伝えた。

 ついでにこの曲がテーマソングの映画のタイトルもおしえておく。


「あー、そうだった! むかしDVD借りてきて観たよ! いい映画だったよね! 私泣いちゃったもん!」

「そ、そうなんだ」


 まさかの発言に驚いた。

 この曲を選んだのはその映画の内容に意味があったからだ。


 地味でさえないヒロインが派手で人気者の女の子と一人の男性を巡って恋の戦いをする物語だった。


 色々しても空回りするヒロインだが、最終的には男性と結ばれるという内容だった。

 宣戦布告的な意味で伝えたのに、まさか共感されるとは思わなかった。

 三ツ井さんもヒロイン側のつもりなのだろうか?

 どう見ても三ツ井さんはライバルの美人で人気者でおっぱいの大きな女の子側の人間だ。


「安東ちゃん、ドリンク次は何にする?」

「あ、じゃあ無糖のストレートティー」

「私もそれにしようっと!」

「じゃあ私も!」


 それにしても突然強引に参加させてもらったのに、みんなやけに私に優しい。

 普段こういう集まりに参加しないから物珍しいんだろうけど、それにしたってずいぶん歓迎されている気がした。


 それはそうと、さっきの丹後くんの歌は最高だった。

 この前カラオケに行ったときに私が選曲したものをまた歌ってくれた。

 惜しむらくは録音出来なかったことだ。


「ねぇねぇ安東ちゃん」


 三ツ井さんが私の二の腕をちょんちょんと突っつき、照れくさそうに耳元で囁いてくる。

 見るとテーブルの下でスマホを操作していた。

 まさかカラオケの音声を録音しているの!?

 となれば、さっきの丹後くんの歌声も……

 可愛い顔してなかやか大胆だ。

 ……あとでシェアしてもらおう。


「連絡先交換しない?」

「へ?」


 どうやらスマホを操作していたのは連絡先の交換のためらしい。


「堂々とするとみんな教えてって言ってきて大変でしょ?」

「連絡先……」

「だめ?」


 不安そうに眉尻を下げる。

 凄まじい可愛さだった。

 こんな顔をされたら断れない。


「ううん、いいよ」

「やった」


 テーブルの下でささっと連絡先を交換する。

 三ツ井さんを牽制しつつ丹後くんと親睦を深めるつもりだったのに、なんでこんな展開になってしまっているのだろう?


 人数が多かったので、その後はなんとか誤魔化しながら歌わずにやり過ごせた。

 歌うのは嫌いじゃないけど、人に聴かせるのは苦手だ。

 誰もいないところでこっそりと歌うのが好きだった。


 なんとか席を移動して丹後くんの隣に移動したかったけど、タイミングが見つからず結局移動すら出来なかった。

 丹後くんも男子たちに囲まれて盛り上がっていた。

 私ほどじゃないにせよ、それほど社交的とは言えなかった丹後くんがみんなとなか良さそうにしているのは嬉しい。



 カラオケが終わるとそれなりに遅い時間だったので、みんないそいそと帰っていく。

 最後に一言くらい丹後くんと話したいと思っていると、気持ちが通じたみたいに丹後くんが私のところに来てくれる。


「楽しかったね」

「うん。私も楽しかった」

「また明日」

「うん」


 ほんの僅かだけど言葉を交わせたことで心が弾む。

 丹後くんは私を喜ばせる天才だ。



 家に帰るとさっそく三ツ井さんからメッセージが届いた。


『今日は来てくれてありがとー!超楽しかったよ!』


 彼女の弾むような声が聞こえてきそうな、元気一杯のメッセージだった。


「もう、なんなの!」


 男の前と女の前では態度の違う憎たらしい女とかなら闘志も燃えるのに、なんで三ツ井さんはこんなにいい子なの!


 こんなんじゃライバル心をバチバチと燃やせない!

 むしろ三ツ井さんも好きなのに、と悶々としなくてはいけない!


 それにあんなに可愛い笑顔見せられたら丹後くんも三ツ井さんを選ぶに決まっている。

 むしろ端から見たら私が『悪役令嬢』役なんじゃないの、これ!?

 笑わない冷血貴族令嬢みたいな扱いで。


 どうしたらいいんだろう?

 こんなときは蘭花さんに相談だ。

 蘭花さんならきっとなにかいいアイデアをくれるに違いない!

 そう思って蘭花さんの家のチャイムを鳴らした。



「あらあら、ライバル出現? それは困っちゃったね」


 蘭花さんは困り顔で微笑む。


「どうしたらいいんでしょうか?」

「大丈夫よ。奏は可愛いんだから」

「ううん。その女の子、すごく可愛いんです。それにいつも愛想よくにこにこ笑って愛嬌があるんです」

「そうねぇ……笑えばきっと奏の方が可愛いと思うけど」

「それが出来ないから困ってるんです」

「そうよねー。うーん」


 蘭花さんは手を頬に添え、天井の方に視線を向けて悩む。


「あ、そうだ。いい考えがあるわ」


 蘭花さんは人差し指をぴんっと立ててにっこり微笑んだ。


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