美少女アンドロイドと呼ばれる無表情の安東さんが、俺にだけデレてくる

鹿ノ倉いるか

第1話 美少女アンドロイドの落とし物

 柔らかで眠くなりそうな春の日差しを浴びる駅前の風景を、ファストフード店の二階の窓から眺めていた。


 でも俺が見ているのはハラハラと崩れるように散っていく桜の花びらじゃなく、期待と皮下脂肪で胸を膨らませる新入生女子でもない。


「なにしてるんだ、あれ?」


 俺が見ていたのは二年になって同じクラスになった安東あんどうかなでさんだ。

 先ほどから何度も駅に出たり入ったり、学校の方に戻ったり、また帰ってきたりを繰り返している。

 しかもその表情はだ。


 安東さんはうちの学校では有名な美少女だ。

 ぱっちりしているのにどこか物憂げな瞳、キリッと引き締まった口許、サイドポニーテールに結った髪。

 その全てが見る人を魅了する。


 しかし彼女が有名なのにはもうひとつ理由があった。


 ほとんど表情を変えず、感情を表に出すこともなく、常に冷静沈着だということだ。

 そのため安東という名字をもじって『美少女アンドロイド』などと呼ばれ、神格化されている。

 難攻不落のアンドロイドに告白し撃沈させられた男は数知れない。


「もう30分はうろうろしてるな」


 そのときだった。

 安東さんは鞄を開けて中を見て、一瞬だけ不安そうに眉尻を下げた。

 はじめて見る彼女の表情の変化だった。


「あ、もしかして」


 見失う前に店を出て安東さんへと駆け寄る。


「安東さん」

「た、丹後くん。こんにちは」

「もしかしたらだけど、なにか大切なものを落とした? 財布とかスマホとか」

「なぜそれを?」


 安東さんは表情を変えず、小さく首を傾げる。

 予想は的中したようだが、無表情で驚いている様子はない。


「実はあの店から安東さんを見てたんだ。ごめん。さっきからこの辺りをうろうろしているから、もしかしたら探し物かなって」

「実はパスケースを失くしちゃって」

「それは大変だ。一緒に探すよ」

「ううん。大丈夫。迷惑かけたくないから」

「クラスメイトが困ってるのにこのまま帰る訳にはいかないよ。それに時間あるし、気にしないで」

「そ、そう? ありがとう」


 安東さんは無表情のままお辞儀する。噂通り徹底した無表情だ。

 でも声は少し緊張してるのを感じた。


 記憶によると駅前に来るまでは確かにパスケースは鞄に入っていたそうだ。

 駅前の本屋に立ち寄り、ドラッグストアでマスクと目薬を買い、駅に来たところでパスケースを紛失していることに気付いたのだと言う。


「ドラッグストアにも本屋さんにも落とし物は届いてないらしくて。交番はいま誰もいないので聞けてないけど」

「そっか。まあ店の人もしっかりは探してないかもしれないな」


 さっそく店に行き、事情を説明してからしゃがんで商品棚の下を探す。


「汚れちゃうよ」

「いいから。ここはまだ探してないでしょ?」

「そうだけど……」


 店中をくまなく探したがパスケースは見つからない。


「探してくれてありがとう。もういいよ。また明日になれば出てくるかもしれないし」

「いや。落としたのなら必ずどこかにあるはずだ」


 駅前の広場も視線を低くして探す。

 さすがに俺一人に屈んで探させるのは悪いと思ったのか、安東さんも屈んで探しはじめる。


「ないねー。この辺りじゃないのかも」

「こっちもないみたい……」


 安東さんに視線を向けて焦った。

 無防備に脚を開き、スカートの奥の無地の純白が見えてしまっていたからだ。


「あ、安東さん、脚っ……」


 小声で伝えると安東さんは慌ててパタンっと脚を閉じた。


「……み、見えた?」

「い、いや。なんにも見えなかったよ」

「……まあスパッツ穿いてるから問題はないんだけど」

「え?」

「…………やっぱり見えたよね?」


 誘導尋問にまんまと引っ掛かって動揺してしまった。

 安東さんは相変わらず無表情だけど、桜の花びらみたいにほんの少しだけ頬を色付かせていた。


 ん、待てよ?


「そうだ、桜だ、桜だよ安東さん」

「桜?」


 安東さんは不思議そうに顔を上げて桜の木を見上げる。


「違う。上じゃない。落ちた桜の花びらの方だよ。パスケースは桜の花びらで隠れてるんじゃない?」

「なるほど。それは失念してた」


 ベンチの下の花びらの吹きだまりの中からパスケースは見つかった。

 探し物が見つかった瞬間、安東さんの目は少しだけ嬉しそうに輝き、口角もわずかに上がった。


「きっと買ったものを鞄に入れるときに落としたんだと思う。見つけてくれて、ありがとう」

「いやいや。そんなに深々と頭を下げなくてもいいし。見つかってよかったよ」

「このお礼は必ずするから」

「そんなのいいよ。それじゃ」


 恩着せがましくなるのが嫌なのでさっさと立去る。

 電車に乗ってもまだ脳裏には安東さんのほんのわずか微笑んだ顔が残像のように残っていた。


 なんだ。ちゃんと笑うんじゃないか。

 アンドロイドなんかじゃないな。




────────────────────



無表情なヒロインとその彼女を笑顔にしようと奮闘する主人公の物語です!


今回はヒロイン側の視点もあり、心の中がだだ漏れです!

焦れったくて甘々な両片想いの物語をお楽しみください!


作者は応援のフォローや★評価を貰えると大喜びします。

餌付け感覚でお願い致します!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る