第2話 需要のないものなんてない!

「まて!!」


機械の触手をのけぞらせて、拝金主義モンスターが振り返る。

「何者だ!?」


「私は管理主義の希望、ジェニム・ロット!!」


「ヴヮカな~~~。管理主義??そんなの時代遅れの思想だ~~~。いいかボウズたち。管理主義ってのは、労働をしたくない怠け者の思想なんだぞ~~~~。ベーシック・インカムなんてクソだ~~~~」


 拝金主義モンスターが洗脳を続ける。これ以上やらせないぞ!!


「研鑽主義なんてのは人々を奴隷にして、こき使うための思想だ!!好きなことを好きなだけ、趣味を極められる管理主義こそが素晴らしい思想なんだ!」


 「聞いたか?趣味の時間なんて、一日1時間あれば十分なんだよ~~~!いいか、坊やたち。労働しない子は悪い子だぞ~~~~」


 おのれ、子供たちに教育の機会を与えず、永遠に奴隷にするつもりだな!?そうはさせない!

 

 「コツ」

 

 「管理主義者なまけもの!テロリストは死んじゃえ!」

 石が私のヘルメットに当てられた。そう。子供たちは教育の時間を十分に与えられず、その無邪気な心が私を敵視しているのだ。


 「君たちや君たちの親たちが働いている間、役員・株主は何をしていると思う?高級料理を食べたり、スポーツカーを乗り回したりして、楽しいことだけをしているんだぞ!?人間を豊かにするのは労働じゃない。教育なんだ。勉強なんだよ!!」


 「嘘だ~~~!!役員様・株主様の悪口は言うな~~~~!労働は、研鑽は、競争は人間を豊かにするのだ~~~!みんな勉強は嫌いだろう?だからあいつは嘘つきだ~~~~!!」


 「勉強なんて大嫌いだ!お金をもらえる労働の方がいいや!!」

 「そうだそうだ!勉強なんてしたって、なんの役にも立たないんだ!」

 子供たちが私に石を投げる。装甲の薄い部分にあたって痛い。それよりも、子供たちに植え付けられた浅はかな考え。それが私に投げつけられているようで、それが痛い。耐えがたい。


 「違うやい!」

 男の子の甲高い声。

 「ジェニム・ロットはみんなの希望なんだ!」

 子供たち、拝金主義モンスターがその子をワッと睨みつける。


 「みんな。自由のために戦う、ジェニム・ロットこそが本当の正義の戦士なんだ!管理主義になれば、毎日ゲームがやりたい放題なんだぞ!!」


 「大馬鹿者ナットスィウロンション!!ゲームを買うには労働をするしかないだろう~~~?それに、ジェニム・ロットは正義の戦士なんかじゃない!!管理主義に生み出された、無個性・効率化の悪の化身、『人工強化兵シュッリルムスライト』だぞ!カプセル生まれの、丸坊主の、頭にバーコードが刻印された、使い捨ての兵士なんだぞ~~~!」


 やめろ、やめてくれ……私は使い捨ての兵士なんかじゃない……。私に心がある限り、使い捨ての兵士なんかじゃないんだ……


 「反倫理的だ!!化け物め!!」

 子供たちが石を投げつける。くそう、教育の機会が十分に与えられていないくせに、そういう言葉だけはしっかり覚えている!!


 「ちがうやい!僕のお父さんはヅェアトロット陸軍の兵士だったんだい!シュッリルムスライトは確かに人工的な兵士だけど……だけど、みんな個性があって、心があって、愛国心・愛思想心があって、いい戦友だって言ってたぞ!!冗談を言い合って、笑い合って、一緒に戦ったんだ!!!」


 少年……。ヘルメット越しに涙は拭けない。私は涙をこぼさないようにこらえるしかなかった。

 「ブヮカな!お前、丸坊主の額にバーコードだぞ!?そういうフェチなのか??」

 おい、やめろ……うぶな少年になんてことを!!


 「違うやい!でも『需要のないものなんてない。どんなものでも意味があり、どんな人でも愛される』んだ!!ボクは、ジェニム・ロットを……彼女をかっこいいヒーローだと思う!!!!」


 よかった、需要あった!じゃなかった。それは……それは、ウーナ・ヴェーデイン初代主席の言葉。失われし管理主義語録の一説!!

 無地のカードに、言葉とプロパガンダ・ポスターの絵柄が浮かび上がる。宙に浮いたカードを指で挟みこみ、


 「獲得セーヴェンス!管理主義カード!」

 私はすかさずそのカードを肩のデバイスにスキャンさせる。


 デバイスの音声:

 「確認チューレス展開スラスト。」

 「『管理主義需要万有自由生産万歳銃!!』」

 これがあれば!!


 「小癪な~~~~~!!」


 拝金主義モンスターが伸ばしてくる機械の触手をひとつずつ打ち抜く。

 キュンキュンキュンッ!!!!!!

 「カード・スキャン!!『ピンハネこそ拝金主義社会の不当な不平等の根源である』」

 「ルニアス思想、認識しました。『下請け・ピンハネ経営打倒ショット』使用可能ネク・ラッド。」


 「下請け・ピンハネ経営打倒ショット!!!!」

 銃の先に藍色の炎が溜まっていき、そしてそれが解き放たれる!!


 「ううわ~~!!5万円の仕事を1万円でやらせれば、紹介料として4万円もらえるのに~~~~~!!」

 ドカーーーーーーーーーーーン!!!!


 やった……のか??

 「おお、やりおったわ!さすがは管理主義英雄じゃ!」


 「やったよジェニム・ロット!!」

 「ちょっと……かっこいいかも」

 「そんな、4万円もピンハネされていたなんて!!」


 子供たちが目を覚ましていく。

 プシューーー。拝金主義モンスターが黒焦げになっている。


 「情けない!!お前の力はその程度ではないだろう?」

 遠くに人影が見える。あの黒のヴェールは三大財閥『ホムゼラガ・ビェダ』ヒェルニエ支社長、ジェヴヨヴォン!!


 「資本投入!!経営再建せよ!!研鑽主義モンスター"ピンハネー"!」

 黒焦げの拝金主義モンスターに資本が投入される。


 「やった、資本だ~~~~~!!」

 黒焦げだった拝金主義モンスターが強大化し、太陽を覆い隠して、私たちを黒い影が包み込んだ。


 「ぺしゃんこだぞ~~~~~」 

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