第60話 悪妻、身震いする
譲歩した上での和議に持ち込んだけど、予断を許さない状況だろう。
この一神教によるトリフルーメ内乱は前世でも起きていたのだ。
モデストに仕える貴族や騎士多数が参加したこともあって、半年以上、国内が混乱した。
前世で発生した時はモデストが帰還し、国内の安定を図るまでに猶予が与えられていたんだけど……。
今回は帰還して早々に起きてしまったのが、厳しい。
しかし、前世でも経験しているだけにどうすればいいのかという指標は立てられる。
この反乱に身を投じている貴族や騎士は必ずしも一枚岩ではないのだ。
彼らの中には信仰心と忠誠心の狭間で悩んでいる者も多い。
実際、この反乱に加担しながらも罪を許され、帰参した者が相当数いたはず……。
一神教の神官達もまた、一枚岩ではないということは分かってる。
国と民を思い、清貧に甘んじる
そこに付けこむ隙があるのだ。
まずはそこを突くべき。
モデストのあの表情は恐らく、私の意図を理解してくれていると考えて、間違いなさそう。
後で相談するとしよう。
嫌でも夜は部屋で顔を突き合わせないといけないのだ。
寝室で一人、モデストを待つ間、蠟燭の揺らめく炎を見ながら、思いを馳せた。
前世で愛するお父様とお母様を失い、夫からは冷遇された私にとって、唯一の拠り所は愛すべき子供達だった。
嫡男であるブラスだけではなく、長女クレーテまで授かり、愛情を注げたのは幽閉された自由の無い生活において、私の生き甲斐になっていたのだ。
そして、ここで私は認めねば、いけないことに気付いてしまった。
例え、義務としてでも絶対にモデストを受け入れないといけない、ということに……。
そうでなければ、愛すべき子らと再会出来ない。
ブラスを産んだのは十七歳の時だった。
つまり、嫌でも今年、彼に仕込んでもらわないといけないのだ。
しかし、それが中々に難しいということは一番、良く分かってるのは誰あろう私だ。
モデストが近づいてくると反射的に体が動く。
時には手で酷い時には足が出る。
目隠しをして、してもらうのも一つの手ではあるのだけど、これは却下だろう。
別の意味で怖い目に遭う未来しか、見えない。
前世では好意の欠片も感じさせなかったくせに初夜から、三日三晩、部屋から出れなかった苦い経験がある。
今世のモデストは前世と違う気がする……。
たまに好意を抱いてくれているのかもしれないと希望を持ってしまう。
いや、単なる私の錯覚なのかもしれないけど。
でも、これが錯覚でないとしたら、目隠しをして、『お情けをくださいませ』と言ったら、どうなるのか……。
もしかして、死ぬんじゃない?
干乾びる未来が視えるわ。
うん、やめよう。
そんな恐ろしい未来なんて想像するだけ、損だっ!
「セナ。どうした?」
「ひえっ!?」
モデストの顔が目の前にあるのに気付きもしないなんて、迂闊だった。
身体が震えてくるのはなぜなの?
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