閑話 愚者の心は彷徨い続ける
どうやら、僕がやろうとすることは後手後手に回っているようだ。
やることなすことが全て、裏目に出ている気がしてならない。
なぜだ?
僕はただ、一度も手を差し伸べることが出来ないまま、彼女を失った。
だから、今世では……今度こそ、守りたいと思ったのだ。
ところが何かがおかしい。
僕が望んでこうなったはずだ。
僕だけが知っている。
そのはずだった。
どうにかしないといけないのは僕であって……。
その前提から、間違っていたんだろうか?
トリフルーメ王家の血を引く者にはある不思議な力が宿っている。
これは力を継いだ者だけに伝えられ、連綿と受け継がれてきたものだ。
しかし、その力を持っていた祖父も父も使う前に若くして、暗殺者の凶刃の前に散っていった。
だから、僕は自らを偽り、我武者羅に生きた。
生きてさえいれば、耐えてさえいれば、力さえ手に入れれば。
そう考えたからだ。
確かに僕は力を手に入れた。
僕を押さえつけていた存在が消えるまで我慢をし続け、手に入れたのだ。
愛する者を失うというどうしようもない喪失感とともに。
全てを手に入れても、心には虚無しかなかった。
僕は決意した。
我が血の力を今こそ使うべきだ、と。
生涯において、ただ一度だけ時を巻き戻すのだ。
そして、僕はやり直しを始めた。
父と母を失い、愛する母国を離れた辛い人質生活は前世と同じだった。
確かにどこか、おかしな点もあった。
考慮するほどのことはないと目を瞑り、ようやく出会えた愛しい人。
僕が初めて恋をして、初めて愛したいと思った人だ。
だが、僕には力が無かった。
守ることが出来なかったし、守ろうともしなかったんだ。
今度こそ、守ってみせる。
前回とは違うところを見せるのだと心に固く誓った。
そうすれば、運命を変えられるはずだと信じていたのだ。
ところがあまりにも以前と違う清楚で可憐な君に見惚れてしまった。
僕の心臓の高鳴りは止まない。
この時から、だろうか。
やることなすことが空回りをし始めたのは……。
冒険者のイシドロとしてだが、彼女との距離が少しは縮まった。
そう感じ始めていた僕は手応えを感じて、油断していたのだろう。
折角、築いた信頼関係を失ったのだ。
全て、僕が悪い。
それでも僕と彼女の婚約は破棄されることはなかった。
婚姻も結ばれた。
書類の上では夫婦になったのだ。
まるでこうなるのが決まった運命のように前世と変わらない。
だが、ここで僕は苦渋の決断を下した。
前回は自分を抑えることが出来ず、嫌がる彼女を力づく、無理矢理犯した。
あの時の僕はどうかしていたんじゃないだろうか?
十四歳だから、子供だからと許されるものか。
泣いている彼女をただ貪るように三日間にわたって、味わい尽くした所業は外道の極みと言われても反論が出来るものじゃない。
十六歳になって、彼女はさらに美しくなった。
僕の心を捉えて離さない彼女を今すぐにでも抱きたいのが本音だ。
あの身体を味わえるのなら、どんな非難を受けようが構わないだろう?
抱いてしまえ、妻なんだから当然だろう?
悪魔のように囁いてくる自分の弱さを抑えるのは辛かったが耐えた。
少なくともこれで運命の歯車が一つは変わったはずだ。
ところが僕の考えは甘かったとしか、言えない。
彼女との関係は未だに書類だけの夫婦から、進展がない。
心の距離は縮まるどころか、離れていくようにも感じる。
彼女を取り巻く環境も決していいとは言えないだろう。
宗主国とも言うべきラピドゥフルから送られた鈴代わりの王妃。
形だけのおざなりの王妃。
彼女自らが望み、トリフルーメの王城に入ったのに向けられる視線は好意的とは言い難いものだ。
そこで僕は一計を案じた。
もし、彼女がトリフルーメの国益となることを成し遂げ、王家の一員であるとアピール出来れば、風向きが変わるのではないだろうか?
最初は疑われることもあるだろう。
だが、きっと受け入れてくれるはずだ。
トリフルーメの民は情けが深いことでも知られているからだ。
では何を成し遂げれば、彼女が認められるかということが焦点になる。
こればかりは一人で考えても埒が明かない。
師にお伺いを立てたところ、『不要とされたものを再生するのはよいものだ。いいだろう? この壺は……』と謎かけのような答えを与えられた。
見せられたのは
また、暫し悩むことになったが、答えを得られた気がする。
僕の提案に戸惑っていたように見えた彼女だが、予想を上回る結果をもって応えてくれた。
しかし、この成功により、今度は『世継ぎの誕生』を期待されることになり、さらに悩むことになろうとは思いもしなかった。
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