第52話 悪妻、ほくそ笑む
翠の騎士団の翠の名の由来は若草色に染められた外套を身に付けることだそうです。
へぇ……とも思えないようなストレートな理由なのよ。
他の騎士団も色で統一された装束になってるから、トリフルーメが分かりやすいんでしょうね。
私もだけど、きわめて軽装の装束が多いのよね。
ローブ姿が多くて、革の軽鎧を身に付けていれば、いい方みたい。
騎士とはとても思えない見た目をしているわ。
トリフルーメには三つの騎士団がある。
王であるモデスト直属の紅の騎士団。
これはいわゆる近衛騎士団に該当してる。
貴族階級で構成された第一騎士団である蒼の騎士団。
平民階級で構成された第二騎士団は黒の騎士団。
じゃあ、翠の騎士団とは何でしょう? という話になるわね。
簡単に言うと他で馴染めなかったり、弾かれたはぐれ者を寄せ集めた集団。
それがなぜか、魔法の才能が多少なりともある者ばかりだったのよね。
不思議な話だわ。
これはトリフルーメで魔法が軽視される風潮があるせいだと思う。
だから、通常の騎士団では居場所がない。
冷遇されていただけにふてくされた者ばかりが集まってしまう。
結果として、やる気もなければ、実力もない名前だけの翠の騎士団が出来てしまったということみたい。
それを任せてくるんだから、モデストはやっぱり、私のこと嫌いなんじゃないかって思うわ。
だいたい、副団長として引っ張ってきたのがラピドゥフルに仕えていた騎士爵のステルーノ卿というのも引っ掛かるところだわ。
幸いなことにステルーノ卿は多少、魔法が使える人みたいだけど。
でも、多少だから、これを活かせるかとは別問題になっちゃう。
そこで私は魔法弓を量産・支給する計画を立てた。
この魔法弓を使いこなすのに相当の努力を続けて、ようやく使いこなせていると公言が出来るレベルに達した。
つまり、普通に魔力の矢を放てる弓を量産しただけでは即戦力とはにならないのだ。
では、どうすればいいいのか?
簡単なことだわ。
矢を放つシステムを簡略化すれば、いいのよ。
クロスボウを原型とした魔法弩にすれば、いいんだもの。
「何とか、形にはなっているみたいね」
「んだな。ええんでないが」
「んだんだ。ごまがいごどはいいだ。終わっだら飯にするべよ」
ステルーノ卿のなんちゃって指揮のもと、
翠の騎士団にはおよそ百名ほどの団員がいる。
およそ半数の五十名ずつで一陣と二陣に分けた。
一陣が撃ち終わり、次弾を装填している間、二陣が撃ち、撃ち終わった二陣が装填に入ると一陣が撃つ。
正直、これを教えるだけでも大変だったのだ。
まるでやる気がないんだもん。
それもしょうがないとは思うのよね。
これまでないがしろにされてきたのが長かすぎたんだろう。
諦めの気持ちの方が強くて、信じられなかったんだと思う。
ただ、全てが悪いことばかりでもなかった。
ロホとアスルをすんなりと受け入れてくれたのだ。
だから、私もこの人達――翠の騎士団を見捨てないと決めた。
「ね? 私の言った通りでしょう?」
「本当ですね~。いや~、すごいですね~。皆さん、見ましたか~」
イラッとくるのは抑えよう。
我慢よ、我慢。
少なくともステルーノ卿に悪意はないはず。
悪意があって、これなら絶対に許さないけど!
でも、苦労した分、実りも大きかったと思う。
あんなにやる気がなくて、死んだ魚のような目をしていたのが嘘みたい。
「我らの姫様バンザーイ! バンザーイ!」
書類上はもう姫じゃないんだけど。
一応、王妃なのよ……。
ま、まぁ、細かいことはいいわ。
見てなさい、モデスト。
私に力を与えたことを後悔させてあげるんだから!
息巻く私をロホとアスルが心配そうに見ていたことなんて、気付きもしなかった。
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