第49話 悪妻、思案するII
前世でも同じ十六歳で嫁いだ私だ。
今世では二度目なんだから、そんなに大変じゃないだろう。
そんな風に考えていた時が私にもありました……。
甘かった!
そうでした。
前世ではモデストと婚儀を結んだだけでトリフルーメに
それがあって、エンディアの侵攻の際に兄弟の契りを交わしたノエル王とモデストの間に固い同盟関係が結ばれた時、裏切者を出した私達一家の扱いが人質に変わったのだ。
前世と同じようにエンディアが攻めてくるかは分からない。
あの国は秘密のベールに包まれてる。
軍事強国であり、かなり好戦的なのは同じみたいだけど、動向が全く、伝わってこないのだ。
それに前世と同じことをしていては、大事なものを守れやしないだろう。
だから、この二年の間に出来るだけの手は打っておいたつもり。
まず、私の家がトリフルーメに
だけど、ここも抜かりはない。
クラルスボヌス公爵となるチコ第二王子がそのまま、預かることになったからだ。
そうなるように誘導するのは大変だったけど、宰相であるアンプルスアゲル卿が色々と手を回してくれたのが大きい。
滞りなく、チコとアリーが領民に受け入れられるようにアフターケアを欠かしていないし、どうしても付いてきたいという領民はトリフルーメに一緒に移住することになった。
そして、私は今、どこにいるか。
それが問題なのだ。
何と、トリフルーメ王国の都ツァオーキの城にいる。
予想していなかった事態にノエミともども、盛大に固まっている。
「思ったよりも立派なお城なのね」
「そ、そうですね」
ノエミはさっきから、『そうですね』しか言ってない。
多分、あまりの情報量の多さに脳がパンクしているんだろう。
私だって、そうだ。
思い返せば、前世で私がこの城に入ったことあったかな。
あったような、ないような……ないわね!
何しろ、あの男ったら、お父様とお母様の犠牲でどうにか、人質から解放されてきた傷心の私を城に入れてくれさえ、しなかったんだから。
私は正妻なのに城下町の教会に留め置かれたまま。
形だけはそれなりに見えるようにと敷地内に邸宅を用意してくれたけど、どう考えてもおかしい。
結局、あの男にとって、没落していくラピドゥフル王国の縁者である私の価値――利用出来ない役立たずだったということなんだろう。
息子のブラスが成長して、優秀で大器の才を秘めていると分かったら、手の平を返すようにブラスを城に引き取ったのも忘れてないわ。
でも、私の立場は変わらなかった。
世継ぎの母と呼ばれるだけだった。
王妃と呼ばれることはない。
何も変わらない。
それなのにこれは何なの?
お城へと案内されて、豪華な王妃の部屋をあてがわれることになって、戸惑ってる。
怪しい……。
何か、企んでいるのかしら?
モデストの姿を卒業パーティーの時から、見ていないのだ。
この扱いを怪しく思わない方がおかしいだろう。
部屋には大きなウォーキングクローゼットがあった。
抗いがたい欲求に負けて、中を覗いた私は見たことを後悔した。
色とりどりではあるけど、派手な色合いではなく、春を思わせる薄い桃色や新緑を連想させる薄緑の色のドレスが所狭しと並んでいたのだ。
何が怖いって、私好みのドレスばかりだったから!
怖いもの見たさに一着を手に取って、身体に当ててみるとさらに鳥肌が立って、止まらない。
怖い、怖いって!
サイズまでがピッタリなんだけど。
何で知ってるの?
ううん、違う。
何が目的なの?
やっぱり、何か企んでいるに違いないわ。
「ねぇ、ノエミ。ディナーはどれを着ていこうかしら?」
「そうですね」
まだ、こっちの世界に帰ってきてないみたいね……。
ノエミの脳がまともに動くようになるまで十分過ぎる時間があったから、薄い桃色のクラシカルドレスを今宵の戦闘着に決めた。
ディナーは戦場! モデストは敵!
そう考えたら、迷うことなくこのドレスを選んでいたのよね。
前世の初顔合わせで着たのと同じ薄い桃色。
わざと選んでみたんだけど、どんな顔をするのか、見ものだわ。
「に、似合っているね、そのドレス」
「は?」
私の方が間抜けな顔を晒す羽目になるなんて、その時の私は知る由もなかったのだ。
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