第3話 悪妻、思案する

 私はラピドゥフル王太子ウルバノの婚約者第一候補だった。


 幼少期から、一流の家庭教師が付いているのだ。

 十分な教育を受けている。

 さらに将来を見越して、王太子妃教育も既に受けていたのだから、基礎の部分では何の問題もなかった。


 それに加えて、母サトゥルニナは王妹。

 血筋も申し分ない。


 でも、これは建前に過ぎなかった。

 王族で丁度いい年頃の娘が私しか、いなかった。

 ただ、それだけなのだ。

 本当の理由なんて、こんなものだわ。


 自分はお姫様!

 世界は自分を中心に回っている。

 そんな自己中心的な考えを抱いていた当時の私はなんと、愚かだったんだろう。

 何も見えてなかったのだ……。


 今の私は冷静かつ真摯に受け止めている。

 三十七年を生きた経験は伊達じゃないのよ!

 だけど、前世での私はそうじゃなかったのをよく覚えている。

 それはもう、荒れた。


 幼い頃から、良く知っているウルバノ。

 理想の王子様と結ばれる。

 そう信じて、疑っていなかったのだから。


 あぁ、思い出したくないことを思い出してしまったわ……。

 モデストと顔合わせの時に最悪な態度をとったよね?


 どうしよう。

 また、同じことをしたら……駄目よ、駄目!

 そんなことをしたら、疎まれて、また殺される未来しか、見えないわ。


 そうよ。

 彼に殺されたんだから。

 忘れては駄目……。

 痛いの駄目! 絶対!


 それでは具体的にどうすれば、いいのか?

 これが一番の問題になるわ。

 顔合わせまであと一週間しかない。

 何かしらの対策を講じることが出来るだろうか。


 逆に言うとそれくらいしか、出来ないだわ。

 これが一年とか、一ヶ月あれば、もっと策を練られるのに……。

 一週間で出来ることなんて限られているわ。


 何があるかしら?

 せめてもう少し、期間があれば、もっと考えられたんだけど!

 やり直しの機会を下さった神様に感謝はしているけど、そこは恨みますよ?


 でも、セラフィナとして、三十七年間を生き抜いた。

 これは決して、無駄になっていない。

 あんな死に方をしたけど、経験と知識は十二歳になっても私の中に確かに残っている。


 つまり、答えを知っているパズルを解くようなものと考えてもいいだろう。

 これは大きなアドバンテージに違いない。


 さて、殺されないようにどう動くかはもっと、長期的な視野で考えないといけないかしらね……。

 準備期間の一週間では顔合わせの時までに何かを動かすのは無理だろう。

 殺されないようにとにかく、彼に嫌われない方向を目指すしか、ないかしら?


 下手に刺激をしたら、いけないわ。

 モデストは忍耐強くて、鷹揚。

 度量が広く、智勇を兼備した理想的な君主。


 嘘ね。

 本当は短期で怒りっぽくて、大人びているくせに変に子供みたいなところのある人だったのよ……。

 いけない。

 ちょっと思い出に浸ってしまったわ。


 そうよね。

 命あっての物種。

 命さえ、あるのなら、離縁されて修道院に入れられるのもありだわ。

 一度、失くしたから、その大切さが良く分かるわ。


 だったら、嫌われたが方がいいのかしら?

 『あんな女とは婚約出来ません』と向こうから、破棄してもらうのも悪くないかもしれない。

 あんな酷い殺され方をしたんだから、嫌われていたのよね?

 そうでなければ、滅多切りにされて、首を切られる理由がないわ。


 そうよ!

 あまりに嫌われたら、すぐに斬られるかも!?

 彼の性格は成長に従って、形成されたものだから、まだ子供だけに歯止めが効かない可能性があるじゃない。


 煽って、わざと嫌われて、婚約破棄作戦は追々、考えた方がいいだろう。

 先走って、逆に藪をつついて蛇を出したくないわ。


 悩むわね。

 まぁ、顔合わせなだけだし。

 実際に会うまで考えるだけ、無駄なのかもしれない。


 とにかく、一週間で出来ること……短期間で効果が出ることを考えなくては!

 まずは周りに味方を作るところから、始めるべきかしら?

 前世では孤立していて、気付いた時には全てが手遅れだったんだから。


 あの人が側にいてくれたら、大丈夫な気がする。

 そうだわ。

 『あの人が欲しいの』って、お父様にお願いしましょう。

 お父様は私に甘いから、お願いを聞いてくれるはずだわ。

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