第20話あたしはここでやっていきたい

「何だ?」

 生徒会室の前から離れて、イチ達の降りた階段とは、廊下を挟んで反対側の階段の踊り場。

「んー。ちょっと、話しにくいんだけど」

 南向きの踊り場の窓から昼の暖かい日差しが差し込んで、カイリの影を階段に映している。

 身長の高いカイリを見上げるあたしに、カイリの瞳がパッと閃いた。


「はっっ!

 カエ。カエの事は大切だけど、妹の様な存在だから……」

 ちょっと待て。

「大丈夫、そういうのじゃ無い!

 つうか、何であたしが振られた風なの?」

「おおうっっ。ミステイク」

 う。ウザい。

 額に手をやるその姿に、一気に相談する気が失せたけど、この事話せるの、やっぱりカイリだけなんだよね。


「リカコさんの事っ。なんだけど……。

 さっきね、あたし4時間目が終わってすぐに生徒会室に行ったんだ。

 絶対一番乗りだと思ってたのに、リカコさんがお昼寝してたの。

 って言うことはさ、遅くとも4時間目には生徒会室にいたんじゃないかと思って」

 もう1つ気になる。まつ毛の事。

「でね。リカコさん、もしかしたら泣いてたんじゃないかなって。

 さっきも話してたけど、最近忙しいみたいだし……。

 何か、辛いのかな」


「そうか。

 いや、ありがとうカエ。気付いてくれて……」

 カイリの瞳が真剣に考えを巡らすのが見て取れる。

 こういうところは、やっぱり一番お兄さんなんだよね。

「昔からそうなんだけど、リカコはさ自分だけが中仕事なのを結構気にしてるみたいなんだよ。

 いつも自分だけが安全なところから指示を出してるって」


「えっ。

 そんな事、気にした事なかった」

 カイリ瞳が柔らかく微笑む。

「まぁ、今度機会があったら直接言ってやってくれ。

 でだ、カエが悪いわけじゃないんだが、誰かが怪我をしたりすると、すごく自分を責めるんだ。プランの不備、下調べの不備があったんじゃないかって」


 今回、あたしが怪我したからっ……。

「そんなのっ!

 現場に出たら何があるかなんてわからないし、全部を予測するなんて不可能だよ」

 つい口調が強くなる。


「そうなんだよなぁ。

 だからこそリカコは中仕事を完璧にこなそうとするんだよ。

 ジュニアは器用だから、中も外もどっちも出来るだろう?

 ちゃんとサブで使って、負担を減らせって言ってるのにな」

 なんか、カイリがこんなにいろいろ知ってるって事は、リカコさんもカイリにだけは話してる事が多いんだろうな。

 普段邪険にしてるけど、今回のキバとアギトの件にしても、何かと連絡取り合ってるし。

 いいなぁ、きっと2人は対等なんだろうな。


 あたしも、リカコさんの隣に並べるように頑張りたいな。

 ……その前に、イチとジュニアか。


「なぁ、カエ」

 考え事に集中していた頭が、カイリの一言に引き戻される。


「リカコにも言ったんだがな。

 その。中でリカコのサブをメインにやっていかないか?」


 むっ!

 ギッとカイリを睨みつける。

「イチにもおんなじような事言われた。

 今回の現場に出すんじゃなかったって。

 足手まといだってっ、言われるなら、弁解のしようもないけど……。

 あたしは」

 あたしは。ここでやっていきたい。

 必要とされていないなら、行く場所なんてどこにも無いんだけど。


「そしたらリカコにえらく怒られた。」

 徐々にうつむいてしまった視線をカイリに戻す。

「勝手な事言ってないで、ここに話を持ってくる前にちゃんとカエの意思を確認しろって。」

 あたしの意思。

「ここではみんな対等なんだってさ。

 リカコが言うなって感じだろう?」

 おおらかなカイリの顔に心がゆっくりと落ち着いていく。


「リカコさんがまとめてくれなかったら、他の誰もここを管理できないよ。」

「まぁ、そうだよな。」

 見合わせた顔から笑みがこぼれる。


「あたしはここでやっていきたい。」

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