第7話緊張感がないっ!
『緊張感がないっ!』
インカムからリカコさんの怒りが爆発する。
あれから1時間程経ち、男達は室内のあちらこちらに何かを仕掛けて帰っていった。
「ごめんなさい」
梁の上でジュニアと顔を見合わせて、謝罪する。
「リカコ。あいつら何かを仕掛けてたんだ。
たぶんカメラの類いだろうけど、確認するまでドアは開けないで」
相変わらず悪びれる様子はないジュニアが、鋼鉄線のウインチを調節しながら下に降りて行く。
室内は、窓から入ってくる夕方の優しい光に彩られて物悲しさを誘う。
壁を斜めに横断していったジュニアは、悪男のセットしていった何かをチェックして、床に降り立った。
「カエっ。降りて来て。
リカコ達も入って来て大丈夫だよ」
自動で巻かれながらゆっくりと上がってくる銃をキャッチして逆回転にすると、壁を蹴りながらゆっくりと降りて行く。
なんか消防士さんの訓練みたい。
室内の照明が点灯し、物悲しさを吹き飛ばす。
「2人とも大丈夫だった?」
小走りに駆け寄るリカコさんに軽く手を振って答えた。
「とりあえず暑かった。
電気の力は偉大だね」
じっとりと汗ばむ前髪を搔き上げると、ジュニアの手伝いをするイチと目が合った。
「無理すんなよ」
「はーい」
こういう時、カイリは真っ先に交代を申し出てくれるけど、イチからは無い。
でもそれはカイリがあたしを末っ子扱いしてるのと、イチが同等の仲間扱いしてくれているのの違いで、どっちがどうの。っていう事ではないし、あたしも出来るところまでは頑張りたい。
それでもフォローしてもらう事は多いけどね。
「盗撮用の小型カメラだね。
近距離の電波で作動させるタイプだから、おそらく車なんかに本体を載せてくるはず。
明日はこいつが作動する前には入らないと」
「了解。
非常撤退経路の確認だけして、今日は解散しましょう」
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夜の
倉庫の梁の上、暇すぎて何度も寝落ちしそうになりながら(下手したらホントに落下)小指の爪程の小さな明かりだけを頼りにジュニアとの暇潰しも限界を迎える頃。
『起きてる?
車が5台入って来たわ』
リカコさんの声に一気に意識が
明かりを消し、ジュニアの背負うデイパックの中に手のひらにも満たないそれを押し込むと、証拠保持用のビデオカメラを取り出す。
「腰痛い」
暗闇に加え、場所の狭さに動きが制限されて、身体の固まったあたしの一言にジュニアの小さな笑い声が届いた。
「商談が始まれば30分も掛からないよ。
もうちょっとの辛抱」
昨日と同じく、煌々と光る照明の上から倉庫を見渡す。
昨日と違うのは、一様にスーツを着た男達が合わせて15人程。
乗り入れた一台の車を挟んで
昨日会ったスーツは参加しているけど、悪男の姿はない。
下っ端チンピラが早々参加出来る場ではないんだろうね。
ジュニアが高性能マイクに付け替えているとはいえ、倉庫の天井から下の声を拾えるかは微妙なところだな。
「───」
中国語?
耳に届く聞き慣れない発音に、ジュニアと目を合わせる。
車のボンネットに置かれるジュラルミンケース。
小袋に入った白い粉。
現金の束。
まるで映画のワンシーンみたい。とは、よく言ったものだね。
白熱灯の熱と、腰の痛みが無かったら現実の実感も薄いかも。
「見て。中国側、奥の壁に寄りかかってる男」
ジュニアの声に視線を移す。
ジュニアに言われるまで、存在すら気付かなかった。
急に男が現れたような奇妙な感覚に襲われる。
「なんだろう。嫌な感じ」
思わず本音が漏れる。
取り引きも佳境を迎えて、お互いの代表が握手を交わす。
張り詰めていた緊張感の、ほんの一瞬の隙間。
「等一下(ちょっと待て)」
急に言葉を発した男は壁から離れるとゆっくりと中央に向かって歩いてきた。
銀龍会の面々も、何事かと警戒の色を濃く出し、現金入りのケースを手繰り寄せる。
でも、男の目的は他のところ……。
「我有一只老鼠 (ネズミがいる)」
白熱灯輝く天井を、濃いサングラスを掛けた眼光が貫いたっ!
っ!
「やっばぁっ。見つかった」
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