3-7.part.Y:教室にて
「おつかれさん」
目を開けると、机に突っ伏したポアくんが顔だけあげて微笑んでいた。長いまつ毛が妙に悩ましい。僕はドキッとして、顔をそらした。
「……ごめん」
「ホントだよ。あんな無茶をこんな可愛いボクにさせるなんてね」
「ホントにごめん。他の作戦が思いつかなくて」
「まぁ、いいよ。ゆるしてあげる、よっぴーとは友達だからね。それに」
口元を組んだ腕にうずめると、彼は少し目を伏せた。怒ってないか不安になった僕は、彼の顔をおそるおそる覗き込んだ。
薄い紫色をした彼の瞳。その真ん中は僕と同じように真っ黒で。それが底なしの深い穴みたいで。見つめていると吸い込まれそうで。
「ホントは君のことなんて、どうでもいいから」
――ハッとなって、立ち上がる。椅子がガタンっと音を立てた。ワイシャツが汗で貼りついて気持ち悪い。周りを見ると、そこはいつもの教室でクラスのみんながこちらを見ていた。
「おはよー、川崎。立ったついでで教科書読んでくれるか?寝起きに頼んで悪いけど」
先生が淡々とそういうと、くすくす笑いが教室に広がった。僕はかぁーっと頬が熱くなるのを感じながら、隣の席の子に教科書のページを聞いた。
「えっと、昨日の続きで――」
笑いを含んだ彼女の声に、恥ずかしくなって、耳まで赤く染まった気がした。
授業が終わって、ぼんやりしながら、次の授業の準備をしていると、隣の彼女がトントンと少し控えめに肩をたたいた。
「鈴木ポアくんってどうしたの?」
突然、彼のことを聞かれるとは思わなくて、どういう意味か考えていると、「ほら、今日休んでるから」と彼の空いてる席を見た。
「川崎くん、鈴木くんと仲いいし。それにさっき寝言で『ボアくん』って彼の名前読んでいたから。何か知ってるのかなーって」
彼女の言葉に授業中に寝ていたことを思い出し、再び頬が熱くなる。しかも、寝言も聞かれていたとは。
「そういえば、鈴木くんも授業中よく寝てるよね。しかも、寝顔もめちゃくちゃ綺麗だし」
ため息まじりに目を細める彼女。その言葉に先日の塔での戦いを思い出す。僕は透明男を倒すため、彼の容姿を利用した。美少女みたいな彼の姿で男を煽り、帰還の
彼は回復のため、療養している。あの後、帰ってから、じっと眠り続けている。
もうあんな技はもう使えない。ロザリオだって、そんなにたくさんあるわけじゃないし、そもそもポアくんを囮になんてしたくない。それでも、あのときはもうアレしか思いつかなかった。でも、次からはしたくない。もう彼に頼るばかりの作戦なんて。
だから、僕はもっと考えなくちゃいけない。
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