第3話
女の子だよ女の子。生贄になるのは女の子です。
あんたそんなことも知らないんですか? そんなことも知らないのに俺に話を聞きにきたんですか? 馬鹿だな。本当に馬鹿だな。
Q県の中でもこの土地……Sの連中が暮らしてるFって呼ばれてるこの土地の神は、いや神なんて呼んでもいいのかね、俺には分からんがそいつの生贄は女って決まってる。あんたQ県初めてなのか? じゃあぐるっと見て回ればいい。見ればいい。村中そこかしこに生贄にされた女の子たちの墓が立ち並んでいますよ。この土地は狂ってる。だからお袋は俺を連れて逃げたんだけどさ。
俺があんたの探してる青山羊円だよ。
その年、その年はね、俺の親父の子どもが生贄に出される廻りだったんです。俺には姉がいたから、そいつが出される、そういう廻り。でも姉は死んじまった。なんで? 知りませんよそんなの。子どもって急に死ぬでしょ。よくあることでしょ。姉は俺より3つ上で、親父は慌てた。慌てててめえの兄貴に相談して、兄貴、つまり俺の伯父に当たる人物だが、そいつの娘が代わりに生贄になった。で親父はその夜のうちに俺を仕込んで、10ヶ月後に俺が生まれた。5年後に生贄になるためにね。でも生まれてきた俺は残念なことに男だった。さあどうする?
親父とお袋は俺を女として育て始めた。5歳の誕生日が来る前に生贄として差し出すためにね。村の連中もみんな俺を女だと思ってた。俺はすごく体が弱いっていう設定で、家からほとんど出ないで育てられた。誰も気付かなかったよ。俺が男だってことにさ。いや、伯父だけは知ってたのかな。何せ自分の娘を代わりに持ってかれたんだからね。次は絶対に弟の子を出させるって執念で俺を見張ってたよ。
お袋はずっと迷ってたらしい。親父とは好き合って結婚したけど、こんな残酷な儀式がある村に連れてこられるなんて思ってもみなかった、次は自分の息子を『娘』として差し出さなきゃならない。迷いに迷ったお袋がどうしたか。
逃げたんだよ。俺を連れてさ。
青山羊ってのはお袋の姓ですらない。お袋が頼った神社の神主の名前だ。お袋は俺を抱えてQ県を飛び出し、県境を越えてすぐの神社に逃げ込んだ。……え? ああ、川があるよ、Q県との県境には。それが良かったんだろうな。あの土地の神は水を越えることができない。なんで? 俺が知るかよ。とにかく俺は女の格好をやめて、青山羊円として新しい人生を生き始めた。生きてたんだ。2年前にあの村の事件が表沙汰になるまでは。
大きな事件になったよな。あんたも知ってるだろ、弁護士の端くれだっていうなら。県警だけじゃない、警視庁からも大勢の捜査員が入って村中引っ掻き回して山ほど遺骨が発見された。骨は骨だからどうしようもないけど、まだ新しい遺体が幾つか見つかって、全員に性暴力を受けた痕跡があった。
分かるか?
あそこは、そういう村だったんだよ。
神なんているもんか。
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