バッタリ会っちゃった
@nobumasa
第1話
雑踏の中を何気なく歩いていると、顔見知りに会うことがある。現在進行形の友人なら呼び止めはするが、数年来となるとなかなか声がかけにくい、通り過ごしてから振り返って「どこかで見かけた顔...」と立ち止まることはあるが。
高校を卒業してバイバイも言わず大阪を出てしまうと同期の友達は遠い過去のものとなって会うこともない、
と思っていたが、奇なものである6人の旧友と遭遇させてくれた。
第1回の同窓会の、まだ数年前だったと思います。担当ではなかったんですが、営業支援である電気メーカーの会社にお邪魔した時のことです。昼休みに入り、「では、兼城さんお昼でも取りに行きましょう」と誘われて食堂に行きました。初めてではないので気兼ねなく雑談しながら昼食をとっていると「カネシロ・・・、兼城ちゃうんか」と、そこの会社の人から声をかかられました。仕事モードに入っている僕は仕事関係のデータベースしか頭になく、かといって仕事関係の人から呼び捨てされるなんて考えられないんで、無表情に「はい、兼城ですが」
「俺や、小林や!鶴が丘で一緒やった。」
「お前、この人知ってるんか」と担当の人
「そうや、高校で一緒やってん。久しぶりやなぁ、ここに仕事で来たんか」
「はい」
「元気にしてるんか」
「はい」
会話はそれでおしまい。
終始無表情の僕にあきれて去っていきました。
仕事を終え、その会社を出てから、プライベートのデータベースがノコノコとやってきて「小林君」の情報を開示したんですが遅かりし。もう弁解する機会は無いやろしあいつ一生俺のこと冷たいな奴やと蔑むやろなぁ。と後悔しきりでした。
後年、同窓会で再会。誤ることができてシコリが取れました。
勤務時間中だったと思います。営業で外回りしていたのでそこらへんは公私混同で日本橋のパソコン量販店によく行ってました。その日もまた、差しあたっての目的もなく、部品を物色しているときでした。平積みではないがその商品棚は対面になっていて反対側の人の顔はスッと見できるんです。
なんとなく前に人が立ったような気がしたんですが、それだけのこと。
のはずがその顔が「カ・ネ・シ・ロ・・・、君?」と話かけて来たんです。
「はい、兼城ですが」
「いやー、奇遇やなぁ、藤岡です、覚えてる?鶴が丘で一緒やった」
「はぁ~」
いつか、同じシーンがあったようで、ここはリレーションをきちんと結んでおかなければ
「たしか1年生一緒やったよなぁ、覚えてる?」と藤岡君
「藤岡君やろ、1年一緒やった。覚えてるよ」先に言ってくれたから知ったかぶりで切り返す
「今、時間ある?ここに喫茶コーナーがあるねん。ちょっと話しようよ」と藤岡君
「いいね、時間あるよ」
コーヒーを飲みながら色々と昔の話が飛び出すものの今一つ虚ろな感じ。
「何人か集まっていて、同窓会を開こうって話が持ち上げってんねん」と藤岡君。
「ふ~ん」
その後、月日を待たずに、藤岡君。鮫島君・太田さんが中核となって同窓会が開かれました。
その会社は、僕が担当して10年近くなる上得意の会社でした。
本社は谷町九丁目にあって足しげく通い、全国に支店営業所にお邪魔したりもしました。工場は枚方にあり、そこに吉富さんという方がおられました。
吉富さんはコンピュータ担当ではないのですが、それに近いところで、よく話もし担当の方を交えて冗談言ったりもよくありました。
でもそれだけのことでした。
第一回同窓会が開かれ、まだ「頭の中は鶴が丘一色」だった時、同窓会名簿を手に入れることができました。「いたいた、思い出したよ、こいつここに行ったんかぁ」あちこちに散らばった校友たちを懐かしく思いながらページをめくります。
と、ふと目に入った谷町にあった会社の名前。「〇〇が何で載ってんねん。誰?え、ヨシトミ!あの吉富さん?」びっくり仰天です。翌日、電話もせずに枚方工場に。
「吉富?彼はちょっと前にやめたよ。」
いつもあるのに、探すとない探し物。居ると寄って来るのに追うと行方を眩ます人。僕のいつものパターンです。
意を決して、自宅に電話。
「もしもし、夜分恐れ入ります。〇〇にお勤めだった吉富さんのお宅でしょうか。ご主人おられますでしょうか。わたしXXでお世話になっていた兼城と申します。」
・・・・・
「吉富ですが、なにか・・・」(なんで、取引会社の人間が俺んちに電話してくんねんっていぶかってるような・・・)
「突然で申し訳ございません。XXではお世話になってありがとうございました。
〇〇にお邪魔したら退職されたと聞き不躾にもご自宅に電話させてもらいました。」
「・・・」
「実は、吉富さんは鶴が丘高校の卒業生だとわかりまして」
「はぁ・・・」
「僕も鶴が丘で、吉富さんと同期やねん」
急に出た「ため口」。取引関係者が校友に戻った瞬間でした。
でも、いつもの逆パターン。用件も無かったし第一、現役時代は接点なかったのでしらけ気味に電話を終えてしまいました。
それからは、吉富くんは毎回同窓会に来てくれて、お互い「・・・さん」づけではなく呼び捨てで話をしています。
これまでのエピソードからはグッと遡って。たぶん大学の時だったと思います。夏休みなど長期休暇といっても、大阪に帰って友達に会うわけでもなく、フラッと帰って、親に元気な顔を見せて、お土産を貰ってトンボ帰り。を繰り返していました。そんなわけで時間は十分にあったんで新幹線で帰るにしても大体は喫茶店に入って時間待ちをするのがクセになっていました。
時間待ちといっても新幹線の指定席を取っているわけではなく。この時間くらいだと東京にこの頃ついて上野が何時ころで夜にはアパートに帰れるか程度のものですが・・・。
その時も、なんとなく入った新幹線構内の喫茶店。いつもほとんど満席なんで、選べるわけではなく空いていた対面二人席に座りました。
座ってすぐはコーヒーを注文したり、荷物の整理をしたりで回りが気にならなかったんですが、一息ついて、たばこをくゆらせているとふと横の席が気になりだしました。そこは壁に接した対面二人の席。縦横50センチほどしかないテーブルを挟んで僕と同じくらいの年代の男女二人が向き合いお互いのコーヒーカップを無言で睨みつけていました。僕が席に着いてから二人はズッと言葉を交わすことがなく、一言で世界が壊れる!そんな雰囲気でした。
ははーん、これは別れ話やな
僕が見えるのは、女性側・・・
あなたがいないこの町で、あなたの思い出を追いかけて暮らしていくのが辛くて耐えられないの
かな・・・?
俺はもう、大阪に帰らないことにしたんだ。今、無理やりにでも君の手を引いて新幹線に飛び乗って・・・、とも思うんだけど
かな?
なんて、勝手な妄想を巡らせている間に、別にそれっていう訳でもない時刻になって、この二人いつまでこんなことしてるんだろう、と下世話に思いながら「さぁ出よう」とレシートをもって立ち上がり、どんな奴かなと横目で男性を見ると!
ん!室田...君!
もうちょっとで声をかけそうだったんですが、まてまてここはそっとしておいて。
今度会ったらそこら辺の事情聞くことにしよう、と思ってン十年。
新幹線最終は、ネクタイを付けたビジネスマンで満席。8時半に東京を出て11時半に新大阪に着いて、それを待っていたかのように最終の地下鉄が駅に滑り込んで来て、それからまた1時間。家に帰るのは夜中となってしまいます。
少し前までなら、昼頃東京について仕事をしてホテルで1泊でしたが、新幹線最終がこの時刻になったこの頃では、始発で大阪を出て最終で帰ってくるのが普通になってしまいました。席取りで並ばなくてよい指定席に座るのがせめてもの安らぎです。
東京へは営業ではなくシステムのセッティングが主ですから新幹線に乗れさえすれば、後はボーッと時間待ちすればいいだけのこと。
横浜を出てからは通路を過ぎる人はまばらになり、荷物を整理する人、車内販売を利用する人も一段落して、車窓は漆黒、コトッコトッという規則正しい振動だけが、この列車が大阪に向かって走っているんだということを教えてくれます。
通路のドアが開いてひとりのサラリーマンが車内に入ってきました。横浜から乗ってきたにしてはすこし間が開いている。ぎりぎりでホームについて飛び乗った4号車あたりからようやくこの車両にたどり着いたんでしょうか。彼もまた夜討ち朝駆けやろなぁ。俺もあんな風に見られるんやろなぁ。と、別に注視するわけでもなくボーっと風景の一つとしてみていると、あれ、あの体格、風貌、どっかで見たような・・・。あ、座った。
確かめようかとも思ってもトイレと反対方向に歩いて行っては、なんとなくバツが悪い。
わざわざ行くのもなんだし・・・、分かった時の話や。といつもの「まぁいいや」。
新大阪についても、席を立つそのサラリーマンは後ろ姿。ホームの階段は降りて前方にあるからいつまでたっても顔は見えない。 いつの間にか見失ってしまいました。
しかし、あのサラリーマンは赤尾君だったに違いありません。
砂を噛むような高校生活の中で卒業するまで切れることなく、大阪を出るときバイバイを言った唯一の友達、川辺君。しかし卒業してからは、僕が大阪を離れたこともあって音信が途絶えてしまってました。30歳になる少し前に大阪に帰ってきて定職に就いたのはよいけれど、帰ってきたというよりは、大阪にやってきたといったほうがピッタリなくらい、旧知の友達に接することはなくなっていて、仲間とはいいがたい職場の上司・同僚と接するだけとなっていました。
それから、結婚して子供ができて親父がなくなって・・・。遮二無二という訳ではないが、しかし前しか見えなかったそれまでの生活が40を過ぎると周りを見回せるようになって来ていて、ふと、皆どうしてるんやろう。と思うようになっていました。
そう、川辺。あいつ、いまどこで何してるんやろう。
僕が勤めていた会社は堺筋本町にあって、よく時間つぶしに船場センタービルをぶらぶらしていました。
輸入雑貨の店が多く、どこにでもあるといったモノではなく、高級品でもないので、サラリーマンには手ごろな値段で子供のお土産を探すことができる所です。
その日は、しかし普段通る地上階でも食堂の多い地下1階でもない、服地を置いている地下2階の通りを歩いていました。その他の階とは違いその通りは少し歩いてはすぐ行き止まりになっていて、ウィンドウショッピングなどと粋がっていられる通りではありません。なんでそんなとこ、と聞かれてもなんとなくとしか答えようがありません。
滅多に通ることもないその通りを目的なくブラブラ歩いていると、前から歩いてくるサラリーマンが目に入って・・・、立ち止まってしまいました。向こうもこちらを見て立ち止まる。「お前こんなところで何してんねん」同時に叫ぶ。
大阪にいたんか、どこ行ってんねん、まだあそこに住んでんのか、話はヤマほどあんなぁ、仕事が引けてから一杯やろう。
とその場は別れました。
川辺君との再会です。
川辺君とはその後は、高校時代と変わらぬ、お互いの家を行き来もする付き合いをしています。
同窓会が開かれると知って待ち合わせて行くことにしました。
「同窓会言うても、会ってどうこう言う奴なんかいてないしなぁ」
「そやなぁ、忘れてもうたなぁ知らん奴ばっかりやろなぁ。」
会場に向かうエレベーター。閉まりかけ、と、滑り込むように一人の女性が乗ってきました。
中は3人、終始無言・・・。
二人で顔を見合わせ「誰やった?」
衝撃の同窓会の予感!
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