通販で人生売買してみた

通販との出会い

−「あぁ人生詰んだわーって時にこの通販に出会ったんです！リピ３回目ですが次の新しい人生をどう楽しんでやろうか今からワクワクしてます＾＾」

どのレビューを見てもこんな感じの感想ばっかりで、サクラにも程があるだろと思いつつ、高鳴る鼓動を止めることは出来なかった。−

ボクは弁護士をしている両親の元に生まれた所謂金持ち一家の一人息子だった。おじいちゃんもひいおじいちゃんも弁護士で、当然ボクも弁護士になる人生だと言い聞かされていた。小学校から高校までは勉強しかしてこなかった。クラスメイトが放課後ゲームをしている中、ボクはまっすぐ塾へ向かう。誘われたこともあったが、弁護士の父がゲームを買ってくれる訳もなくいつの日か誰もボクに話しかけなくなった。幸いだったのはいじめに発展しなかったことくらいかな。一人でいることにも慣れた頃、友達と呼べる人に出会った。高校２年生の時だった。彼は最近の話題に疎い自分にいつも面白い話をしてくれた。芸能人の熱愛や政治家の不祥事、最新AIを使った便利グッズ。あの頃の自分を支えてくれていたのは間違いなく彼だった。そんな彼ともかれこれ４年音信不通だ。というかボクが一方的に避けていると言った方が正しい。何せ人生詰んでる最中なんでね。合わせる顔がないもんで。でもきっと彼なら今のボクを見ても何も言わずまた面白い話をしてくれるんだろう。そんなことはさておき、両親とも絶縁状態な無能フリーター男（現ニート）のボクが今、一世一代の大決心をしようといているところなのだ。弁護士になるために大学進学したものの、重すぎるプレッシャーや過度な期待、膨大な量のレポート、試験に耐えきれず家を出て３年。大学を辞めたこともまだ両親に言えていない。まぁ全然行ってないからとっくに大学から通告が来てるだろうけど。それを分かった上で連絡してこないということはつまりそういうことなのだ。コンビニのアルバイトでなんとか食いつないでいたのに、店長の横領が発覚し店は閉業。新しいバイト先を探そうにも圧倒的コミュ力欠如のせいで全然受からない。バイトの面接って大体は受かるもんなんじゃないの？と思っていたのに痛すぎる仕打ちに涙すら出てこない。そういえばコンビニのバイトは父が人生経験としてやっておけと用意してくれたんだった。貯金もあと少しで底をつく。いつの日にか明日のバイト探しどうしようから明日のご飯どうしように変わり、今では明日生きてるかどうかも分からない時間を過ごしていた。

そんな時、たまたまYouTubeの広告で見つけた怪しすぎるサイト。どうやら欲しい人生を購入出来るらしい。レビューは星４.9。怪しすぎる。こんなのに引っかかる奴なんているのかと詳細を見てみた。サイト名は人生売買専門通販サイト「ルフェール」。大前提として欲しい人生を見つけ購入したら、今までの人生は自動的に売りに出される。放り出した人生をそのままにしておくわけにはいかないからだ。自分にとっては最悪な人生でもそれを求める人はいるのだそう。そして、購入した人生に生まれ変わっても今までの記憶は消えない。つまり大人が子供の人生を買えば無双することも可能ということだ。金額はその人生の内容によってピンキリ。どうしたもんか。なぜか興味をそそられる。やばいめちゃくちゃやってみたい！！！！レビューを見てみると「こんな楽しい人生があったなんて、もっと早くこのサイトに出会いたかったです！最高！」「最初は怪しいなって思ったんですけど、事務局もしっかりしてて安心して人生を購入することが出来ました。」「あぁ人生詰んだわーって時にこの通販に出会ったんです！リピ３回目ですが次の新しい人生をどう楽しんでやろうか今からワクワクしてます＾＾」.......

誰かボクの好奇心を止めてくれ。あと一つレビューを読んだら買ってしまう。あぁダメだ決心しなくちゃ。これはボクの、まさに人生をかけた大勝負の時なのかもしれない。残り少ない貯金を使ってついに購入ページへ飛んでしまった。ボクが選んだ人生は、「父（４８）：メーカー勤務、母（４５）：主婦、ボク（１６）：高校１年生、弟（１２）：小学６年生」というごく一般的な家庭だ。そう。ボクはこのthe普通な感じを求めていたんだよね。高校生の勉強内容だってすぐに思い出せるし、あの頃欲しくてたまらなかったゲームや流行りの話題にもついていけるかもしれない。期待は高まるばかりだ。よし、このボタンを押したら新しい人生が始まる。やるぞ、ボクは生まれ変わるんだ！！このクソみたいな現実を手放して、絶対に幸せを手に入れる！！！

やや大きめな打鍵音を響かせながら、ボクの人生はリスタートした。