第19話 ラウラの願い

舗装された道を見つけて、辿ることで案外早く輸送車両が何台も並んでいる場所を見つけることが出来た。


帝国兵のポケットから拝借した鍵に書かれている番号の車両を探す。

 

「1992・・1993・・1994、あれか」

 

鍵には1994と書かれており、この番号は恐らく車体の後ろに書かれている管理番号だろう。これは共和国と同じシステムだ。

 

鍵を回し、扉を開けて乗り込むと、エンジンを掛ける。

 

「これは、凄いな」

 

帝国の文明レベルが共和国よりも一段階ほど上がっている、とは聞いたことがあるが、文明レベルが一段階上がるとここまで進化するものかと感心する。


ボタンも綺麗にまとまっており、無線機はコンパクト化されている。


他にも沢山の進化点があって、ずっと見ていたいが、そんな時間の余裕はない。持ってきた荷物から、帝国領土内の地図を広げる。


そこには現在地であるこの谷に赤丸がついてある。一昨日の夜、何かがあるのではないかと考えていた時に記したものだ。


それを見て、唇を噛み締める。また、無駄だと諦めていたのか。あの時、どうせ上に提言しても無駄だろ、と考えていた。


その考え方は捨てていたはずなのに、無意識に行っていた。


もし、提言して聞き入れて貰えていたら、僕の隣ではまだシズが微笑んでいてくれていただろう。


お前のせいだ。


そう、僕のせいなんだ。


この赤丸は二度と忘れない。

 

帝国の地図は大体頭に入れているが、やはり実物の地図があると心強い。


このまま最速で帝都に着くようにすると、およそ12日間。


また、僕の乗っている車がシズ達の乗っている車に追いつく、という可能性も充分に考えられる。


いずれにしろ、しばらくは運転する日々が続くだろう、とハンドルを握りながら考えた。

 


・・・部屋から出て行ってくれ。

 

この言葉に背中を押されるように部屋を出てきた。


見てられない姿となったネオ。どんな声がけをしても意味ないと悟った私は部屋を出るしか出来なかった。

 

前方で崖が崩れるのを目撃した。

 

「ブレーキかけるよ!!」

 

運転していたラウラは同僚のレイレとそのパートナーのエマ、そしてラウラ自身のパートナーであるナナに宣言しながら全力でブレーキを踏んだ。

 

「あちゃー、あれはヤバいっすね」

 

ナナがぐちゃぐちゃとなった車内で一番先に声を出す。

 

「あー、確かにヤバい。撤退じゃない?」

 

エマもナナが見ている前の方を見ながら呟く。

 

「まだ撤退なんて司令が出てないでしょ。ほら・・・・」

 

きちんと正面を見るとレイレは絶句した。


ラウラも同じで、言葉を出すことが出来なかった。


勿論、谷の危険性を理解していたが、ここまでのことが起こるとは想定出来なかった。

 

「ネオ・・・」

 

思わず、前方にいるはずの想い人の名前を呼んでしまう。


いつもなら、事情を知っているレイレが茶々を出すのだが、レイレも今はそれどころではないことを理解している。

 

「あ、行動可能な車両だけでキャンプ地へ撤退っす」

 

急ブレーキの反動で助手席を飛び出していたナナが、助手席に戻って無線からの連絡を伝える。

 

「・・・分かったわ」

 

迷いながらアクセスを踏む。多分、大丈夫よね。ネオとティトのことだし、なんとか生き延びてるよね。


3人で夕焼けを見ている時に胸をよぎった不安が、またもや駆けめぐる。


大丈夫、生きている。恋心を理解した時から好きな彼の無事を願いながら、不安から逃げるように輸送車両を走らせる。

 

キャンプ地に着くと、輸送車両を飛び降り、ネオとティトが乗っている車両を探す。


だが、探してみても見当たらない。もしかしたら見落しをしているかも、と思いもう一度探してみるけど見つからない。

 

「ラウラ」

 

キャンプ地を三周しようと考え、歩き始めた時に後ろからナナの声がする。

 

「・・・何?私は忙しいの」

 

「帰りましょう。もう・・・居ないですから」

 

ナナが顔を伏せて言う。僅かに声がかすれているようにも聞き取れる。

 

「何が?」

 

何が、とは分かっているが、あえて聞く。私が「分かっている」内容が酷すぎて認めたくない。


違う事実であって欲しい。

 

「・・・・ネオ、ティト特殊兵が乗車している車両を含めた前衛部隊からは無線反応がないらしいです」

 

「・・・・」

 

「今、捜索チームが谷にもう一度向かってます。その帰りを待ちましょう」

 

「・・・分かったわ」

 

ここで泣きわめいても仕方がない。今出来ることは、頼みの綱である捜索隊に祈るだけ。


物わかりが良いと評判だった精錬場の優等生は、唯一の友人達の安全を祈りながら、自分の車両へと足を向けた。

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