君を守る僕をキミは監視する〜聖剣使いと思念術士〜
冬峰裕喜
共和国編
第1話 聖剣使いと思念術士
それは古代文明跡から発掘されたものではなく、また神の力を宿したものでもない。思念術士によって放たれた思念と共鳴出来る剣。それが聖剣なのである。
「ネオ! 次の出動はいつになったの?」
ルーベル共和国。第三基地軍宿舎のエントランスでそう声を掛けられた。
「部屋で待っててって言ったよね、シズ」
ハスキーな声と東洋人に近い顔立ち、肩までの長さがある黒髪の持ち主はシズ。生まれながらにして僕の専属思念術士。
「長すぎて待てなかったー。それで、何か決まった?」
「ここではあれだから部屋で話すよ」
「えー! 面倒くさい! ここが良い!」
「ダメ。ほら、部屋に帰るよ」
シズの手を引き、部屋へと移動する。握った手はまだ小さく、こんな女の子が戦場に出て良いのか、なんて意味のない事を考えてしまう。
シズは今年で14歳。生まれた直後から思念精錬場という教育設備に入所し、12年間の訓練を受けてきた。その12年は思念を飛ばすことだけに専念しており、普通の女の子が経験するはずのことは一切排除されている。
学校生活、友人関係、年相応の遊び。そして何よりも親の顔を覚えていない、親の名前を知らない。
そういう僕も他人の事を言える立場じゃないんだよな・・・。
3歳の頃から軍部の剣士精錬場で訓練を受けた。剣の扱い方を覚え、剣で人を斬ることを覚えた。
兵器として12年間育てられた僕は、僕自身で進路を決める経験をしないまま兵士となった。
だけど、シズと比べては恵まれた環境だったのだろう。精錬場では友人を作ることが出来、何よりも僕は3年間、両親と一緒に過せた。
今でも1年に1回ほど会えるし、たまに連絡もする。
「ネオ?」
怪訝そうにシズが僕の顔を覗いてる。
「どうしたの?」
「分からないけど、なんか想いが沈んでたよ」
独特な表現で確信を突かれる。
「少し考え事をしててね。さ、部屋に入ろう」
「うん!」
シズの部屋に入ると、相変わらずの殺風景が目を襲う。
「シズ、何か欲しいものはないの?」
「欲しいもの?」
「うん、部屋に何か置いたら良いと思うんだ」
部屋はベッドと小さな机だけ。綺麗、というより異常な程の清潔さで部屋が完結されている。
「ネオが良い!」
「それ以外で」
「えー、別に欲しいものなんてないし、大丈夫だよ?」
「部屋に何かあった方が良いだろ。こんな殺風景だと気が滅入るんじゃないか?」
「別にそんなことないけどなぁ。あ、それならネオが決めてよ!」
「僕が? センスないけど大丈夫なの?」
「大丈夫だよ! ネオが選んだやつなら何でも大切にするから!」
「・・・そこまで言うなら分かったよ。期待はしないでよ」
「うん! 楽しみにしてる!」
「それ、期待してるって事だよね・・・」
女の子にプレゼントを買う機会なんてこれまで無かったからな。そういえば、2年間一緒に過ごしてきたのに1度もシズにプレゼントを渡したことがない。
・・・思い返せばフッと笑ってしまう。2年前のシズに、今のシズを見せてあげたいな。
「どうしたの? 急に笑って」
「昔のシズを思い出してね。あの頃は・・・」
「またその話だ! もう何回も聞いたよー!」
「僕から見たら、それくらいシズは変わったんだよ」
「そんな変わってないよ! 私は私なの!」
「はいはい」
シズの頭を撫でながら思い出す。初めて出会った時の印象は、表情がない人形だった。
さらに人と話すことが苦手で、僕と 話す時も目を合わせてくれることは無かった。
こちらが何を問いかけても「はい」としか返さず、何を考えているのか分からない幼い少女。
今ではこんなに話せるようになって・・・。
まだ、僕以外と話すのは苦手なようだけど、成長を感じるな。
「それで、今回のミーティングでは特に発表は無かった。いつも通り、帝国が仕掛けてきたら防衛するだけだ」
本題を切り出す。
「分かった!」
「・・・あと、噂程度だけど、来月あたりに大規模遠征があるかもしれない」
「そうなんだ。でも、今の時期にする意味はあるの?」
「それは上の人達が考えることだ。僕たちは僕たちにしか出来ないことをしよう」
「そうだね。うん、分かった!」
「よろしい」
頭を撫でるとエヘヘ~と嬉しそうな声を出すシズ。関係性は軍の上司と部下だけど、ついつい妹みたいに扱ってしまう。
「それじゃ、また夕飯の時に迎えに行くよ」
「えー、もう行っちゃうの?」
「うん。少し仕事があるんだ」
「そうなんだ。行ってらっしゃーい!」
ドアまで見送りに来てくれて、手を振るシズ。
「行ってきます」
手を振り返して、再び会議室へと向かう。長期遠征計画の最終会議の為に。
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