2話:追放された聖女は、幼馴染を訪ねます
翌日、私は
公平性を
これで結果が決まるのね。
次期王妃になるのか。
それとも、
結果はわかりきってる気がするけど。
「聖女フローレンスよ、前へ!」
証言台に立ったが、ここに立つとなぜか罪人になった気分だ。
「これより、聖女フローレンスが真に治癒の加護を受けたか確認するため、加護調べを行う! 患者をここに!」
祭司様がそう命じると、何人かの
「機会は3回! 聖女フローレンスが傷を治せなかった場合、すでに加護を失ったとして、追放、王子との婚約は破棄する物とする! 異議はあるか?」
「ありません……」
私が小さくそうつぶやくと、加護調べは無情にも始まった。
「始め!」
観客たちの
私は今までと同じように
何度繰り返しても、治る気配はなかった。
司祭様の顔を見て、首を左右に振る。
いくらやっても無駄だ、私にはもう力がない。
「……フローレンスよ、それでいいのか?」
祭司様は開始を告げた時とは全く違う、優しい声で問いかけてくれたが、私の意思は変わらない。
「ええ……。私フローレンスは、聖女としての力を失いました……」
すみません、司祭様。
貴方が勧めてくださったのに、力をなくしてしまって。
私が諦めたとわかると、観客席から大きなため息が漏れた。
皆、聖女であり、未来の王妃である私の力を見に来たのだ、がっかりしても無理はない。
「フローレンスよ、本日を持って聖女の任を解き、王子との婚約を破棄する!」
こうして私は自由の身になった。
◇
これからどうしようかしら。
聖女の地位を失った私は衣食住なにも保証されていない状態で街に放り出された。
もう二度と、着てないかと
今あるのは、少しの小銭とボロ布で作られたかと思うような衣服のみ。
暖を取ろうとポケットの中に手を入れると、クシャっとした感触があった。
「なにかしら?」
広げてみると、そこには数日前にアンリからもらった手紙が入っていた。
「リチャードって案外近くに住んでいたのね」
その手紙に書かれた住所は、王宮の目と鼻の先だった。
とつぜん
いや、話せなくてもいい、彼を一目見ることさえできれば。
客を装って行ってみよう。
◇
住所の近くまできたが、とても人が住めそうなところではなかった。
脇道の入り組んだ中にあり、近くには
「酷いところね……」
こんなところに住んでて、危ない目に
なんてことを考えてるうちに、すぐ彼の住む集合住宅の前まで来てしまった。
ここね……。
もしいきなり彼が出てきたらどうしよう。
私って気が付いてくれなかったらどうしよう。
そんなことを考えて、扉の前でうろうろしていると、誰か来る気配がした。
彼だったらどうしよう……。
いや、もしかしたら浮浪者とか変質者かも。
ここに来るまで見たことを考えると十二分にあり得る。
そんな人達に乱暴されては困る。
そんな考えが彼を
急いで何回かドアを叩くと、中から間延びした返事が聞こえてきた。
「は~い」
聞いたことない男の人の声だ。
声変わりしてるから当たり前だが、もしリチャードじゃ無かったらどうしよう。
そんな余計な考えが頭の中を駆け回り、ドアが開くまでの時間が、永遠のように感じられた。
ゆっくりと扉が開くと、中からリチャードが出てきた。
背は伸び、がっしりとした体つきになり、顔は大人びていたが、間違いなく私の幼馴染のリチャードだ!
「え? フローレンス?」
ドアを開けたリチャードは、面食らったような顔をしていた。
「そうよ! 覚えててくれたの?」
やった!
リチャードが私のこと覚えててくれるなんて!
ただ、あんなにすぐわかるなんて、私修道院を出た時から成長してないのかしら?
「まあね。とりあえず入れよ」
少し恥ずかしそうにはにかむと、リチャードは中に入れてくれた。
「おじゃましまーす!」
初めて入る部屋だったが、不思議と懐かしさがあった。
「絵が欲しいのか?」
私が座るよりも早く、リチャードは尋ねてきた。
「そういうわけじゃなくてね……」
一目会えればいいと考えていたので、話題がない。
「絵じゃないなら、帰ってくれないか? ここは聖女様が来るような所じゃない」
なんで?
確かに、ここに来るまでの道はお世辞にも安全とは言えなかった。
それでも、折角会えたんだし、何か話したい。
「ねぇリチャード……、私もう聖女じゃないのよ」
「つまらない冗談言うなよ。フローレンスは聖女になるからって修道院から王宮に行ったんじゃん?」
「私にはもう加護がないの」
部屋の中に一本だけ枯れかけた花があったので、治そうとしたが、全く変化が無かった。
前までこんな花、一瞬で治せたのに。
「これで分かったでしょ?」
「人殺しでもしたのか?」
なぜかリチャードはすっとんきょうなことを
「へ? そんなことしてないわよ」
虫すら殺せないのに、人なんか殺せるわけがない。
「私が人殺しそうに見える?」
じっと、リチャードを目を見つめたら、彼はサッと視線をずらし、一冊の本を出してきた。
「いや、悪い。実はこの本に、聖女が加護を完全に失うのは、神に背く行為をしたときだけってあったからさ」
リチャードが指したページを見てみたが、読めない……。
「ちょっと、これ外国語で書かれてるじゃない! 他国の本は
「そうだよ?」
リチャードは悪びれもせず、「なに当たり前のこと言ってるんだ?」とでも言いたげな顔でそう答えた。
「正直、この国で聖女と加護は神聖な物として研究対象になってないから、他国のものを見るしかないんだ」
「そうかもしれないけど……」
まあ私自身、加護のことについて詳しく知らなかったから、それを知れるのは助かるけど。
「それで、主に背く以外で加護を失う原因ってあるの?」
「あーちょっと待ってろ」
リチャードすごい勢いでページをめくり始め、突然ピタリと止まった。
「あー、いいか読むぞ。『聖女が神に背いていないにもかかわらず力を失った時、以下の原因が考えられる。なにかを強く拒絶したか、加護を使用するにあたり強い嫌悪を抱いたかである。そしてその場合、訓練をすることで、再び加護を取り戻す事ができる』だってさ」
「そうなの? けど、もう聖女にはなりたくないからこのままでも――」
いくら祭司様の命令でも、特定の人しか助けられないのは嫌だし。
「なに言ってるんだよ。聖女じゃなくなったって事は、自分の好きなように加護を使えるってことだぞ。取り戻さなくてどうするんだよ」
「そうかしら?」
まあ確かに今さら加護を取り戻しましたって言っても、もう聖女には戻れないだろう。
それに聖女じゃなければ、上下の区別なく治したいと思った人を治すことができる。
リチャードの言う通りだ。
「いや、そうね! 私加護を取り戻せるように頑張ってみるわ!」
ずっと捕らわれてたから忘れてた。
私は自由になったんだわ!
「ありがとう! リチャードに言われるまで気が付かなかったわ!」
「頑張れ! 俺になにかできることがあるなら協力するから」
「じゃ、じゃあ早速こんなこと言うは申し訳ないんだけど、しばらくここに住まわせてくれないかしら?」
自由になったで思い出したけど、衣食住全てを
この先行く当てもない。
もちろんお金も……。
「家事は私がするから……。ね?」
「……わかった、気が済むまで居ていいよ」
最後ウィンクが効いたのか、リチャードは快く許可してくれた。
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