竜誕祭 4


 そう思っていたのですが、まあ、なんだか不思議な感じです。


「やはり使ってきたようね〜」

「はい、そのようです。すみません、お願いします」

「任せて〜」


 身体が勝手に立ち上がり、舞台を降りて人気ひとけのない場所へと移動していきます。

 姿を消してついてくるティムファーファ様のおかげで、意識ははっきりしているのですが……おそらくこれがエルフたちの取得した——呪術。

 舞台で突然私がいなくなったことは、演出の一部とされることでしょうから……ここまでは予想通りですね。


「ようやく戻って来たな」


 と声がして目線を上げると……そこは城の近くの森です。

 一見すると金髪碧眼の王子様……なのですが、表情は私を完全に見下しています。

 まあ、エルフの皆さんだいたいこんな顔しかしてないのですが。


「さて、貴様は“原初の精霊”を手に入れたらしいな。見せてみろ」

「…………」

「どうした? 早く見せろ」


 それ以前にこの方はどなたでしょう?

 会場にいた方々はエルフの王様以外名前がわかりませんでして。

 でも、エルフよりも耳が長いのでハイエルフなのは間違いなさそうですね。

 そして思いの外“原初の精霊”……精霊に対しても偉そう……。

 意外です。

 エルフは精霊を信奉していると思っていました。

 ——ああ、なるほど……ティムファーファ様がおっしゃっていた『拗らせている』とは、こういう……。


「おい、私の命令が聞こえないのか! ……ちっ、もっと強めに呪うしかないか」

『やめるナリ! そんなことをすれば死人が出るナリ!』

「ティムファーファ様!」


 姿を消していたティムファーファ様が、くるりんと宙で一回転して現れました。

 そうです、エルフの呪術は、たくさんのエルフが少しずつ貯めた魔力で使うもの……。

 きっと私を操ってここまで連れてくる魔力も、たくさんの人がマナを魔力に変換するときに出る毒素に耐えながら作ったもののはず。

 それを無駄遣いさせるのは、ティムファーファ様のおっしゃる通り死人が出てしまいます。


「おお……神々しいマナの塊……これが“原初の精霊”……! 素晴らしい……!」


 恍惚とした表情を見るに、やはり精霊への信仰心は残っている、のでしょうか?

 それにしては先程の偉そうな態度が些か気になりますが……。


「“原初の精霊”よ、ティムファーファといったか……我はハイエルフのフォレスター。次期エルフ王だ。ティムファーファ、我らエルフに再び魔法を授けたまえ。なぜ奪った? なぜ返さない? 我らエルフにとって風の魔法、植物の魔法、土の魔法は誇りそのもの。“原初の精霊”ならば、我らに魔法を返すことは可能だろう? 魔法を奪われ二千と数百年、もう十分なはず。どうか返してほしい」

「……!」


 エルフは長寿。

 ティムファーファ様が話してくださった『世界のバランス』の話を、エルフは聞かされていないのでしょうか?

 ちらりと白い尻尾を見上げると、背中の毛が少し逆立っておられます。


『それをミーに言うってことは、エルフたちはやはりミーの話をまるで理解してないということナリな? 信じられないのだ。ハイエルフとエルフは、叡智の生き物。それなのにミーの言ったことこれっぽっちも理解してない! ユーたちの優秀な脳みそ、なにに使ってんナリ』


 がう、と吠えるところが可愛くて、一瞬なにを言ってるのかわかりませんでしたがティムファーファ様のおっしゃる通りすぎて……。

 というか……。


「『世界のバランス』のお話は、エルフたちにもされておられたのですか?」

『したナリよ。というか、エルフ族は寿命が最長の種族ナリ。ミーたち精霊は、エルフ族が他の種族に伝えて主導していってくれるものだとばかり思ってたナリ』

「ええっ」


 な、なんとー!?


『でもそれをしなかったナリな? ハイエルフ……なぜナリ』

「なぜ? それはこちらのセリフだ。なぜ精霊は人間などという劣等種族に魔法を与えて、我らから魔法を奪った?」

『あれ? ミーの話聞いてる?』

「魔法は我らのものだった。あらゆる魔法は、エルフのものだったのだ! それをなぜ! 人間などに! あんな弱い生き物に! 短命で! 脆く頭も悪い生き物に与えたのか! 魔法さえあれば、我らは人間ごときにも、魔物風情に遅れをとることなどなかったというのに!」


 

 ああ、エルフたちは魔法を奪われてこんなにも絶望してしまったのですね。

 ……可哀想。


「……命令だ、“原初の精霊”ティムファーファ、人間。お前たちの力でこの城を破壊して、パーティーに出席している者たちを皆殺しにしてこい」

「!」

『本気で言ってるナリ? ミーもリセもそんなことしないナリ』

「するさ。我らの呪術は呪いだ。我らが魔法を奪われ、長い年月のその辛苦の末に編み出したものだからな……。さあ、やれ!」

「うっ」


 体にバチバチと電流が走るように痛みます。

 え、本当に……痛い!?

 でも、この痛みは……なんだか、まるで……!


 

『痛い』

『ああ、苦しい……』

『全身が焼け爛れるようだ』

『でも、これで魔力が生み出せる』

『この魔力で、我らから魔法を奪った人間に報復を!』

『この魔力で、再びエルフ族に魔法を!』

『精霊を、ねじ伏せてでも——』


「っ!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る