Steal Out

徳野壮一

第1話HAWAII

 太平洋に浮かぶ、ハワイ州オアフ島。世界有数のリゾート地として知られるこの島には、年間400万人ほどの観光者が訪れる。一年を通して気温の変化が少なく、過ごしやすい気候。眩しい太陽に美しい海。訪れる人は自ずと明るく陽気な気分になる。


「うわぁ!見てこのサマードレス!すっごく可愛い!」

「本当だ!既に美しいレイラニがさらに美しく輝いてるよ」

「もうやだ、ダーリンたら!」


 浮かれているカップルがショッピングをしていた。

 ここの大型ショッピングモールは品数豊富で、なんでも揃ってると観光客に人気だ。地元民にも愛され、賑わっているこの店ではカップルなど珍しくもない。よくある光景だった。

 カップルは周りの目は関係ないと、楽しそうに話しながら服を見て回っていた。彼氏は明らかに島の外から来た様子だった。

 そのカップルの後ろを一人のキャップを被った青年が通りすぎた。その青年はブランド店のテナントをでると、行き交う人混みに紛れて姿が消えた。


「私やっぱりこのサマードレスが気に入ったわ!」

「よし、じゃあそれを買ってあげるよ!」

「まあ、ホント!?……でも少しお高いわよ」

「ハッハッハッ、レイラニが喜んでくれるならこのくらい何でもないよ!」


 カップルは楽しそうにレジへ向かった。そしてお金を払う段階になって気づくのだ。

 男性のズボンのヒップポケットに入れていた財布がないことに——。

 

 


 カップル後ろを通り過ぎる時に財布をスッだ青年は、何気ない顔をしながらショッピングモールの出口に向かって歩いていた。


「ちょろかったな」


 青年は金を持った観光客をターゲットにスリをする常習犯だった。

 彼女にしか目に映っておらず、盗ってくださいと言わんばかりにポケットからでた長財布。チェーンすらついていないので、青年にしてみれば今回の相手はボーナスチャンスみたいなものだ。自分のポケットに入っている戦利品を確かめるのが今から楽しみだった。

 青年にはただ一つ残念な事がある。

 それは財布をなくしたことに気がついた時の彼氏の青ざめる姿を見れないことだった。

楽しそうにショッピングをしてた時とはうってかわって、きっと面白いほどテンションが下がるのだろう。

 捕まる危険があるのでその場に留まることはできないが、爆笑必死だっただろう。


「クッ!?」


 金持ちが慌てる姿はきっと面白いだろうと、妄想を膨らませていた青年は前から歩いてきた男と肩がぶつかった。


「てめぇ……」


 自分にぶつかってきたのにも関わらず、何事もなかった様に歩き去っていく奴の態度に、青年は頭に血がのぼっていく。追いかけて殴り倒してやろうと思ったが、盗んだ財布を持っている今揉め事を起こしたらマズいと、冷静になれと、自分に言い聞かせ帰路についた。

 この時青年は気づいていなかった。

 盗んだ財布がいつの間にか無くなっていることに。


「ダメだね。先生に言われたことがないのかな、家に帰るまで遠足ですってさ」



 ハワイ……有数のリゾート地とはいえ、治安は決して良くはない。ホームレスは沢山いるし、ギャングやマフィアだっている。

 昼夜問わず、男女問わず行われる犯罪。光があれば影があるように、闇に蠢く者もいる。違法薬物の売買、銃の発砲、強盗事件、etc。

 日が落ちればなおのこと、善人悪人問わず油断してはいけない。

 

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