三題噺集・三
「夕」「宝物」「露台」
北の大地、北海道では家でバーベキューをすることはよくある。このファミリー層が多い一戸建て居住地では、ご近所でもバーベキューをしている光景は夏場では珍しくはない。
我が家には自慢の露台……今風にいうと、ウッドデッキがある。リビングからそのまま窓を隔てて繋がっているそのウッドデッキは、リビングと一体化していてアウトドア気分も味わえる最高の代物だ。
キャンプが趣味の夫が、いつでもバーベキューをしたいという思いで作られたそれは、小さな庭の緑とも相まって、素敵な眺めである。
子供のいない我が家では、休日はたびたび、二人でゆっくりとそのウッドデッキで過ごす。
初めはウッドデッキなど作らず全て庭にしてしまえば良かったのではないか?と思ったのだが、ウッドデッキがある方が断然趣きがあるだろう、と豪語した。確かに、いざ出来上がってみると、木製のそれは、なんだかただ庭があるよりも、自然の中にいるような、そんな気分にさせてくれる。庭の緑との調和が良かった。
朝のテントの設置を終えると、ウッドデッキではホットサンドメーカーを取り出して、朝食の準備。出来上がった食パンと鳥もも肉のホットサンドにかぶりついて、夫婦二人で爽やかな朝食の時間を取る。
昼は簡単にお湯を沸かして、セイコーマートのカップラーメンを啜る。家で食べるカップラーメンよりも、美味しい気分にさせてくれるから、アウトドアは素晴らしい。
昼をゆっくりと過ごし、だんだん日が暮れてくる。夕日が私たちを照らし、夜の訪れを告げる。
「結婚した日を思い出すね」
夫は沈みゆく夕日を名残惜しそうに見つめる。
会社員になって私は夫に出会い、社内の部活動になんとなく参加したアウトドア部で彼と意気投合し、何度かデートを重ねていくうち、その時はまだ一戸建てなんて買うつもりなかったのでとあるコテージのウッドデッキで彼のプロポーズを受けた。
あぁ、そうか。
彼にとって、このウッドデッキという象徴は大切なもので、この夕日はかけがえのない宝物なんだ。結婚して2年になる、今更そんなことに気づいた。
「そうだね」
私も今、宝物になったよ。ロマンチストな夫のせいだろうか? とっくに落ちてしまった夕日に、なんとなく感傷的になってしまった。次の結婚記念日は、ウッドデッキで過ごすプランを提案してみよう、そんなふうに思った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます