美野さん48才

右左上左右右

(SSG)

私は丑年生まれ。

牛の様にのったり動きが遅い私にはぴったり。

年も明けた雪のある日、天井が、世界が回った。

今まで感じたことの無い眩暈と耳鳴り、吐き気に身動き一つ出来なかった。

「蝸牛症状ですね」

脳の中のカタツムリが悪さをしているのだと医者は言う。

牛と蝸牛では大違いだ。

「どうしたら良いんでしょうか?」

「薬で抑えましょう」

「副作用は無いんですか?」

「副作用は吐き気と眩暈です」

それは薬の意味があるのか?

思わず顔に出たのだろう。

医者が肩を竦めて「実は…」と言う。

「塩を摂取するとカタツムリが溶けます」

「量は?」

「30グラムほど」

「それ、カタツムリも死ぬけれど私も死にませんか?」

「軽く致死量ですね」

どうしろと言うのか。

「このままだと、どうなりますか?」

「症例としては角が生えてきます」

般若みたいな?

「闘牛の様に荒々しくなります」

「…」

「更年期障害とも言います」

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