右左上左右右

(SSG)

祖父が酒に酔って古い狸の置物を何処からか持ち帰ってきた。

祖父と同衾する巨大な狸を見た時には思わず変な声が出た。

どうやって持ち帰ってきたのか、子供の身長程もあるそれは、中々の重量だ。

仕方無いので、祖父の部屋にそのまま転がして置いたのだが、ある日酔って帰った祖父が親しげに誰かと話している。


「いや、もうね、是非とも呑み直しましょうよ」


ああ、近所のおじさんかな。嫌だなと様子を伺うと、あの狸を抱えて部屋に向かう祖父の背中があった。むしろ、祖父があの狸に抱えられているように見えた。

祖父の部屋に入っていく姿を見届け、開けっ放しだった口を慌てて閉じる。


ソッと音を立てない様に祖父の部屋の前まで行くと、中から楽しそうな祖父の声が聞こえてきた。


「いやもうあれからそんなに経つかねぇ」


襖を細く開けて覗くと、狸を相手に酒を酌み交わしている。


その狸は、写真の祖父の親友にそっくりだった。

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