盆に帰らず

右左上左右右

(SSG)

「婆ちゃん、なんで川に行っちゃダメなの?」


茹だる暑さに孫が不満を洩らす。


「そりゃあ川には河童がおるで」


何を当たり前の事をと言いたげな祖母に、孫が頬を膨らませる。


「河童なんかいないもん」


「んにゃ、水で溺れた者は河童になる。したら川から離れられねぇから盆にも帰れねぇ。だから、近付いちゃなんねぇ」


「わっかんないよ」


まだ小3の子には難しいのか、呑んでいる大人達の所へ走る。


「お母さん、川で遊んでくる!」


「1人じゃダメよ」


「わかった」


サンダルを履き川の方へと進む。

15分ほど歩くと川原が見えた。

が、人がいない。いや、1人だけいた。従姉だ。


「姉ちゃん」


「どうしたの?川はダメって言われたでしょ?」


「1人じゃなきゃ大丈夫」


「そう」


腰から下を川に浸けた従姉はフフと笑う。


「じゃあ、おいで。一緒に逝こう」


差し出された手には水掻きがあった。

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