第10話 角と京美

ヘッドロックを外し、さっきまでワーキャーしていた三人は一旦落ち着いた。

そして、もう一度会議を再開する事にした。


京美は自分が日本から来たことを伝え、そして大きな疑問の一つ。何故言葉が通じるのかをティムに聞いてみた。


「ゴホゴホ……わ、わかりました、京美さんはヤーシャ族ではなく日本人という民族なのですね?」


ティムは壁にかけてある地図を持ってきて、そしてテーブルに広げこう言った。


「この地図はこの世界全ての国が描かれています、ご覧になった事はありますか?」


京美は勉強は得意ではなかったが流石に世界地図はわかる。


「こんな大陸の形は……いや無いよ、これは初めて見た」


「この世界にはこの地図しか存在しません……そして日本人という民族を僕は初めて耳にしました、もしかしたら京美さんは何処か他の世界の住人なのかもしれません」


人差し指を唇にあてなぞるティム。


「そんな事ってある?」


「正直僕も馬鹿げた事を言っていると思います、でも京美さんはこの国で滅びたと思われていた治癒草の上で目を覚ました。何か因果があるというか……奇跡が重なりすぎているんですよ、何かこの世界に来た理由があるんじゃないかと」


「奇跡か…私は一度、自分は死んだんじゃないかって思っているんだよね。夢を見てるみたいな……アリナやティムだって綺麗すぎるしさ、街で偶然見かけたモデルなんかよりもずっと」


「僕たちが凄く綺麗なのは現実です。それで言葉の件なのですが、この世界には言葉は一つしかありません 何故なら戦争が起こる前この世界は一つの大きな国だったのです」


サラっとナルシズムを醸し出すティムは話し続ける。


「この世界は言葉よりも相手の表情や仕草を大事にしています、勿論、言葉が不要だとは言いません こうして京美さんにお話出来ているのも言葉のおかげですし」


京美は隣りでウトウトしているアリナを見て


「確かにね、アリナを見ていると言葉よりも仕草、表情を読み取るって大事なんじゃないかって思えるよ」


ティムは立ち上がると部屋にあるキャビネットを開け何かを探しながら言った。


「京美さん、帰れる手段が見つかるまでここに居てくれませんか?アリナに料理も教えて頂きたいですし」


京美はハハハと笑う。


「正直、暫く泊めてくれって頼もうかと思っててさー助かるよ」


ティムはキャビネットに腕を深くつっこみ


「うーん、ないなー」とガサガサ探している。


「何を探しているの?」


「お金です、アリナと京美さんで食材を買いに行って貰いたくて 僕、国から結構貰ってるんですけどー……」


「使ったよ」


いつの間にか起きていたアリナは言った。


二人はびっくりして同時に聞いた。


「「何に使ったの?」」


「元気になるお肉、おじさんが美味しいよって」



あれかーーーーーー



「アリナに変な物売りつけやがって! ティム、私さちょっと肉店に行ってくるわ……」


「はい!助かります 京美さん 村に行く前にちょっとこれを…」


ティムは骨格標本の角を折り真新しい包帯をぐるりと巻きつけた。


「これを頭に付けて行ってください」


「え…これってヤーシャ族のフリしろって事?」


「はい、付けておいたほうがきっと便利ですよ!」


アリナは既に外に出ていて待ちきれないという様子で「キョーミ、早く行こう」と声をかけてきた。


頭頂部の不安定な角を片手で支えながら「すぐ行くよ」と京美は答えた。

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