第8話 レバニラニラ玉
ベッドから半身を起こしているミイラ兄ちゃん。
傍らにはアリナ。
スプーンにカエルみたいな奴の頭を乗せ、献身的なアリナは無理やり兄ちゃんの口元に運び、食べる食べないで押し問答している。
「食べて」
「ム~……」
頑なに口を開かない兄ちゃん
「体に良いって店のおじさんが言ってた、だから食べて」
無表情でスプーンをググイっと口に押し付ける。
「僕は完全に治ったから大丈夫なんだよ、見てこんなに元気いっぱい、ほらほら、ね?」
どうしても食べたくないのだろう。
兄ちゃんは病み上がりにもかかわらず、ベッドから降り軽快にシャドーボクシングを披露する。
憮然とした表情のアリナ。
京美はその様子を部屋に入らず
ドア付近で腕組みをして見ていた。
(兄ちゃんも日本語……ここはメジャーな観光国?それにしても、私抜きて日本語で会話しているのは変か)
兄ちゃんがカエルリゾットの苦しみを共有したのを見届け、満足したのでそろそろ助ける事にした。
部屋に入りアリナに声をかける。
「兄ちゃん、治ったみたいだね」
兄ちゃんはこちらを見るとギョッとして、
アリナに視線だけで『この方はどちら様?』と聞いている。
「キョーミは宝で兄さんを助けた」
もじもじとやたら簡素に答えるアリナ。
兄ちゃんは当然理解してない。
頭の上に「?」が浮かんでいるのが表情でわかる。
京美は仕方ないと自分がわかる範囲で説明を始めた。
「兄ちゃんは事故で怪我して意識がなかったんだよ 傷を治す草の種をアリナは探していて、たまたま私がそれを持ってた」
兄ちゃんはフムフムと静かに聞いている。
そして納得したように言った。
「それで、僕は助かったのですね」
「そう。兄ちゃん理解力あって助かるよ」
それを聞いた、隣りにいるアリナはちょっとムッとした表情をしている。
「僕はティム考古学者です、貴女は命の恩人ですね」
ニコリと笑う、ティムもアリナに負けない美人顔。ミイラ男コスプレ状態とは思えない爽やかな笑顔。
「私は京美、ティム元気になって良かったよ」
ティムは笑顔のままアリナの頭をポンポンしながら
「アリナもありがとう、宝の話覚えていてくれたんだね」
「そうだよ、アリナが一番頑張ったんだ」
京美もニッとした。
アリナはムッとしていた表情を和らげ、モジモジとはにかんだ。
そして恥ずかしそうに隣の部屋に行ってしまった。
ティムは少し落ち着いたようでベッドに腰を掛け、癖なのか人差し指を唇にあて言った。
「しかし驚きました。本当にあったんですね国の宝」
「そんなに珍しい物なの?」京美は思わず聞いてしまう。
ティムは顔を上げ、「はい」と返事をして話を続けた。
「遥か昔このミャラッカ国では当たり前のように治癒草が繁茂していました。しかしそれを巡って乱獲。近隣の国が侵略を始め徐々になくなっていったんです」
(ここミャラッカという国なんだ、へー……聞いたことないな。)
京美の心の中で謎が一つ解けた。
「そうか、あんなに傷がすぐに治るような草
戦争に利用したら恐ろしい事になるね、不死身の人なんてさ」
「はい」と頷いてティムは話を続ける。
「治癒草は最初とても特徴的な形をしていたんです、しかし自らが滅びそうになると人の目に触れない場所に移り他の草に擬態して紛れる様になったそうです」
「確かにニラみたいなー?何処にでもある草だったわ」
「ニラ!? なんですそれは?詳しく教えて下さい」
「あー、ニラ知らない?ニラ玉とかレバニラとかさ、入れると美味しいんだ。そうだ…ティムあんたアリナに料理教えた事無いでしょ。」
少しの沈黙
「はい…」という俯いたティムの重い返事。
足音が聞こえアリナが部屋に戻ってきた。
両手で鍋を持っている、蓋とのスキマから『奴の足』がビヨンと飛び出している。
そして「おかわりは?」と二人に尋ねた。
「ティム、泊めてくれたお礼するわ、アリナに料理教える」
「はい!」とティムは力強く答えた。
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