ダンジョンはすんごいものの宝庫でした!?~ちびっこ女子高生が行く現代ダンジョン~

水戸ミト

第1話 

 見えるのは石の天井と壁だけ。窓とか、外に繋がるような場所は見えない。


 唯一の道はと言えば正面に見える先の見えない通路だけ。

 突き当りは見えず、障害物らしきものも見えない。


 明かりは無いのに、視界ははっきりしている。壁が光を発しているとかでもなく、普通に見ることが出来ている。


 何ともまあ不思議なことだ。


「ふむ」


 動かずに救助を待つのがいいか、それとも自力で出口を探してみるか。

 あまり動かない方がいいのかもしれないけど、正直じっとしているのは落ち着かない。というか普通に怖い。


 起きたらどうしてこんな場所にいるの?


「……取り合えず、行こうかな」


 歩きながら記憶を辿ってみる。学校帰りに少し寄り道をして、軽い地震があったところまでは覚えている。でも、それっきり記憶がはっきりしないのだ。

 ふわっとした浮遊感?の後、目が覚めたらこの洞窟にいたのだ。どうしてか気を失っていたみたいだけど、本当に何があったのか。


 それにここの空気なんか変な感じがする。ちゃんと説明しろと言われたら上手く答えられないけど、でも何となく変な感じなんだ。


 それに洞窟とは言ったけど、明らかに自然にできたじゃない。通路は綺麗に切り取られており、壁を触ると、さらさらという感触が返ってくる。ドッキリか何かのセットと言われると納得できる。けど、いきなり気絶させてこんな所に放り込むようなとこは一般の女子高生にはしないだろう。

 考えても結局よく分からないので、脚を進める。


 何の変化もなく、続いている通路をひたすら真っすぐに進んでいく。


「それにしても本当に何もない……」


 ひょっとしたら何かの古代遺跡とか、地底人の通り道なのではと思ったりした瞬間もあった。でも人っ子一人いないし、それどころか自分が発するもの以外音も聞こえない。


 ここまで静かだと、別の意味で怖くなってくるから止めて欲しいんだけど……  


 そんなことを考えながら歩いていると、遠くの方に何か見えた気がした。

 しかしここで慌てて駆けて行ったりはしない。もしかしたら熊とかオオカミとか危ない動物かもしれからね。


 ……日本にオオカミはいないんだっけ?


 それはともかくとして、そろ~りそろ~りと近づいてく。  


 通路の先のほうにナニカがいた。

 まだ距離はあるけど、その姿形はくっきりと見ることが出来た。


 最近アニメ化した転生系の主人公が異世界で転生した種族。有名なゲームに出てくるかの有名な雑魚モンスターにして自爆技を使ったりする――……そう、スライムである。

 うん、スライム。青い見た目、透き通った体。その水まんじゅうのような体の中には黒い石が入っている。それが『ぷるぷる』と震えながら通路の中央に佇んでいた。


 ……何だろう。少し可愛いと思ってしまった自分がいる。よく本を読んで「スライム可愛い」と叫んでいる友達がいるけど、少し気持ちが分かった気がする。というかもしあの子がアレと見たら、きっと狂喜乱舞することだろう。


 さて、どう考えても意思疎通が出来るとは思えない。

 けど……もしもの可能性もある。話せなくても言葉は通じるかもしれない。そうすれば出口までの道を教えてもらえる、なんてこともある……かもしれない。

 試すだけ、試してみようかな。


 とりあえず注意しながら近寄ってみる。悪いスライムだったら、襲い掛かってくるかもしれないから警戒は大切だ。

 こういう時に重要なのは、こっちに敵意が無いことを見せることと相手の目線になって接すること!


 ――ってこの間テレビの『野生動物絡まれよう!~オープンユアハート~』でやってた!


 手が届くぐらいの距離まで来たのに、特に反応を見せない。もしかして、気づいていないんだろうか?疑問に思いながらも、声を掛けてみる。


「こんにちは、初めまして」


「……(びく)!?」


 おお、跳ねた跳ねた。スーパーボールかってぐらい跳ねた。

 やっぱり気づいていなかったみたいだ。こんな近くまで来てるのに気が付かないなんてことあるのだろうか。このスライムがよっぽど鈍いのか、僕のスニーキングスキルが滅茶苦茶高いかのどっちかだよね。

 ……まあ後者は無いと思うけど。


 目があるのか無いのかも分からないので、多分こっちを向いているだろうと思って話を続ける。それにしても、実際に見てみると、何というか感慨深いものがある。ゲームや漫画でしか見たことのなかった存在がこうして目の前にいるのだ。後で触らせてくれたりしないだろうか。


「えっと、僕は龍希たつきっていいます。実は出口を探しているのですが、ご存じありませんか?」


「……(ぷるん)?」


「えっと、僕の言っていること分かりますか?」


「……(ぷるん)!」


 反応からして言葉は通じているらしい。身体を上下に揺らしているから、頷いてるってことなんだよね。


 それに自分でも不思議なのだが、何となく言っていることが分かるような気がするのだ。はっきりとではないけど、「はい」か「いいえ」ぐらいは分かる。この勘が間違っている可能性も無くはないけど、ここはこの感覚を信じて話を続けてみよう。とうかちょっと面白くなってきた。


「あの、スライムさん。さっきも言ったんですけど僕、出口を探しているんです。どんな情報でもいいので、それっぽいものとか知りませんか?」


「……(ぷる)」


 多分悩んでいる、もしくは考えている感じかな。

 考えるのに時間が掛かっているみたいなので、僕もスライムの前に座りこんで結論が出るのを待つことにする。


 そういえば喉が渇いたと思い、鞄の中を漁る。学校に行くときから持っていたもので、目が覚めた時には傍に落ちていた。中身もざっと見た感じだけど、特に変わった感じはない。中身も全部無事だ。


 そして、目当てのペットボトルを発見する。しかし、ほんのちょっぴり底に溜まっている程度しかなかった。そうだった。学校でほとんど飲み切っちゃったのを忘れてた。


 それでも飲まないよりはましと思い数滴の水を飲んでみるが、やっぱり足りない。それどころかむしろもっと喉が渇いた気さえしてくる。


「……はぁ」


「……(ぷるん)」


 空のペットボトルを前に項垂れていると、スライムが体から触手を伸ばしてペットボトルの上にかざす。するとその先端から、水が出てきてペットボトルに溜まっていくのだ。そして、中身が一杯になると触手からの水も止まり、するすると体に戻って行く。


「これって……?」


「……(ぷるん)」


「飲め、ってこと、かな?」


「……(ぷるん)」


「え、えぇ……で、でもこれって――」


 君の体液じゃないの、と続けようとしたところで凄い速さで伸びてきた触手で頭を叩かれる。どうやらちゃんとした水だと言いたいらしい。色んな角度から見てみるけど、確かに普通の水にしか見えない。それに僕が飲むのを目の前のスライムが見ている気がする。


 さすがに出してもらったものを飲まないのは失礼だよね……?


「えっと、じゃあ頂くね?」


「……(ぷるん)」


 女は度胸だっ!と思い切って飲んでみる。


 ごく……ごく……ごくごくごくごく!!


「っ!?」


 美味しい!?


 何これ、想像の百倍ぐらい美味しいんだけど。家で飲む水道水とか、お店で売っているような『~の天然水』みたいな水よりも遥かに美味しい。気が付いたらあっという間に飲み干してしまっていた。


「……(ぷるん)」


「あ、ありがとう。とても美味しかったです」


「……(ぷるん)」


 僕が全部飲み干したのを見届けて、空になったボトルにさっきと同じ方法で水を注いでくれる。もう少し待って欲しいって感じのニュアンスを受け取ったので、待つことにする。さっきの一杯で喉は潤ったから、今貰ったのは後で飲むようにとっておくことにする。

 それから、もう一度鞄の中身を物色する。


 学校帰りだったから正直大したものは入っていない。教科書、ノート類が数冊ずつとシャーペンなどの文房具各種。いざという時に武器になりそうなものは、ハサミぐらい。しかも筆箱に入るコンパクトなサイズのやつ。


 教科書をお腹側と背中側に入れておく。よく漫画とかで、これで助かったみたいな話はよく聞くからね。

 スライムなんていうファンタジーな生き物がいる以上、他のファンタジー生物も出てくるかもしれない。例えばゴブリンとかコボルトとかがこの先の通路で待ち構えていても不思議じゃないのだ。


 いる前提で動いた方がいいだろうと思い、ハサミをポケットの中に忍ばせる。


 目の前のスライムは、何かと良くしてくれているから敵じゃない、と思いたい。敵意みたいなものは感じないから多分大丈夫だと思う。


 そうこうしている内に、スライムの方も考えがまとまったみたいだ。どうやら出口っぽい場所を知っているらしい。ぽいというのは、そこが出口かどうか確信が無いからみたい。


「そこまで案内して貰うことってできますか?」


「……(ぷるん)」


「ありがとうございます!」


 こうして僕の洞窟探検かつ脱出の案内人としてスライムが同行することになった。とりあえず外に出たらみんなにスライムの事を自慢しよう。ひょっとしたら世紀の大発見かもしれないもんね!


 しかし、大発見でもなんでもないことを知るのはこの洞窟の正体を聞かされる時の話である。

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