私の影映し
まんまる
序章
第1話 出発
――――両手にカバンとスーツケースを持ちながら、駅を走っていた。
「じゃあ行ってきます」
そう言って、夏生(なつき)は両手に荷物を持ちながら慌ただしく家を出た。次の電車に乗らなければならないのだ。
ポケットからスマホを取り出した。
「やばっ」
時刻はすでに電車に間に合うギリギリだった。
夏生は走る。これを逃せば次に電車が来るのは1時間後なのだ。
草木の茂る平原を走る電車に揺られながら、夏生は窓の外を見ていた。
おもむろに財布から『
春から大学生の夏生は、親元を離れて一人暮らしをはじめる。
夢見ていた大学生。
夏生はこれから始まる大学生活に夢を膨らませていた。
溢れんばかりの期待と共に、夏生は母に合格祝いとして買ってもらったカバンに学生証をしまおうとした。
チラリと見える小さな白い手鏡が目にとまった。
夏生と妹の
2人は髪型が違わなければ見分けがつかず、小さい頃に両親を騙して遊んだ事もあった。
――千映と一緒に大学生活を送るはずだっのに。
千映は大学入試の数日前に交通事故に遭った。車にはねられたのだ。
緊急入院することになってしまった千映は、入学試験を受けることが出来なかったショックで塞ぎ込んでしまった。
今もまだ入院はしているが、怪我は順調に回復しもうすぐ退院の予定日だ。
夏生は前日に千映の病室を訪ねていた。
「お姉ちゃん! ついに大学生だね!」
夏生が病室に入るなり、千映は驚いた様子で夏生を迎えた。帰り際、夏生の大学祝いとして千映は自分の白い手鏡を贈った。
夏生は、まだ塞ぎ込んでいるものだと思っていた千映が持ち前の明るさを取り戻していたことに安堵した。
一緒に大学へ行けないのは悲しいが、あれだけ元気ならば大丈夫だろう。帰省するときはたくさん土産話をもって帰ろう。
そう思いながら夏生は学生証をしまい、窓から見える景色に目をやった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます