第39話 愛すべき暴力クソ女の為に

 クラウディオによって召喚された〈八岐大蛇〉は、すでに王都の半分を壊滅させなおも侵攻している。それだけではなく、同じように黒い泥で形作られた魔導鎧マギアメイルみたいなやつらもいやがる。はっきり言って多勢に無勢だ。


「なあ、クラウディオはあの化け物のどこにいると思う?」

「そうですわね……。八つの首はそれぞれ同格に見えますし、やはり敵の中心でしょうか?」

「だよなあアンナ。つまり八つの首とあの化け物共をどうにかして本体にたどり着かねえと殴れねえってことだ」


 あいつのは一本一本が強力な魔法を放つ龍と思った方がいい。攻撃も防御も段違いだ。さすがに私たちで全部を相手にするのはちょっと無茶だな。


「姉御、見て下せえ。四大騎士団の旗があがってやす!」

「あれは……大通りの方ですね。敵の大半を引き付けているようですよ姐さん」


 やっぱりカリナたちも動いたか!

 敵があっちってことは、私たちがやるべきは……!


「私たちは大将を狙うよ。総員、いつも通り体力の限り駆け抜けな! 特務騎士団ジョーカー突撃!」

「「「うおおおおおおっ!!!」」」



 ☆☆☆☆☆



「四大騎士団全軍! ここが正念場ぞ。奮戦せよ!」

「「「はっ!」」」


 スペードの騎士団長にして西方王国最強の将軍、ガードナー殿のげきが飛ぶ。イザベルの警告のおかげで、なんとか命を拾った私――カリナ・ケインリーは、手勢をかき集めて出撃した。万全とは言えないがやるしかない。


 女王陛下はガードナー殿が救出し、なんとか一命をとりとめているという。あとは化け物共をこの王都から消し去るだけだ。


「団長、アイアネッタ団長はこちらの意図に気がついてくれるでしょうか?」

「心配するな副官。イザベルはそういう勝負勘が強い子だ。ねえ、そうでしょグレゴリー?」

「ああそうだ。あいつならやるさ。あいつ頼みなのが情けねえがなあっ!」

「私たちは私たちの仕事を全うするだけさ。――ん? 副官、部隊を任せるぞ!」

「はっ!」

「私たちは首をやるぞグレゴリー!」

「おうさ!」


 一、二、三、四……。化け物共の親玉のが四本やって来た。王都の空を我が物顔で泳ぐ様は、まるで伝説の龍だ。


「各団長に告ぐ。我らは首を受け持つぞ!」

「「「はっ!」」」


 ちょうど四対四だ。ガードナー将軍の指揮で、フォーメーションを形成する。


「トーレス団長、我らの汚名を雪ぐ時よ!」

「わかっている! この私だって後れをとらん!」


 ガードナー殿を除く私たちは、いずれも三魔将とかいう連中に敗北した身。西方王国四大騎士団団長の名誉は、勝利してこそ守られる!


「クローバーの騎士団長、〈ロックザロックアメジス〉を駆りしグレゴリー・サンチェス!」

「ダイヤの騎士団長、〈シャークサファイア〉を駆りしティム・トーレス!」

「ハートの騎士団長、〈ブラッディアリュビス〉を駆りしカリナ・ケインリー!」

「そしてスペードの騎士団長、〈オーストパージア〉を駆りしガッツ・ガードナー!」


 各々の機体が輝き真の力が解放される。

 女王陛下より賜りし、宝玉の名を刻んだ機体たち。


「《超暴風スーパーハリケーン連撃拳パンチ》ッ!!!」

「《大瀑布ジェットストリーム激流槍ランス》ッ!!!」

「《紅鮮血クリムゾン閃光激ブラッディラッシュ》ッ!!!」

「《雷神破サンダーボルト城大槌ブレイカー》ッ!!!」


 グレゴリーの技も、ティムの技も、そして私の技も機体も以前より強化された。そして城すら吹き飛ばすガードナー殿の必殺技が炸裂する。


 安心してほしいイザベル。私が頼れるお義姉さんだってことを見せてあげるわ!



 ☆☆☆☆☆



「すごい魔力を感じますわ!」


 空に四色の閃光が輝いた。おそらくあれは、噂だけに聞く四大騎士団長専用機の真の力を開放した形態。まさかここまでのものだとは……!


「――! 危ないお姉様!」

「うおっ!? 首か!」


 〈八岐大蛇〉の首の一つがこちらを睨みつける。こいつを倒さないとお姉様は先に進めない。けれど戦っている暇はない。こちらの本隊はギリギリの戦いをしているし、早く敵の本体を倒さないと。それなら――!


「お姉様、ここは私のアンドゥハー隊に任せて先に行ってくださいまし!」

「アンナ……大丈夫なのか?」

「任せてくださいお姉様。こんなスリルいっぱいのシチュエーション、私サイッコーに興奮しますわ!」

「……わかった。頼む!」


 お姉様の〈アイアネリオン〉が、地を駆け進んで行く。

 ええ、これでいいのです。私はお姉様のお力になりさえすれば。


「おいドエム、無茶はすんなよ」

「アンナ、危なくなったら逃げな」

「余計なお世話ですわ! 早くお姉様と一緒に行ってくださいまし!」


 ジャンさん、カルロさん、他のチンピラさんの方々。まあ、悪い方たちではないんですけどね。むしろ今まで楽しかったですわ。お姉様と部隊の仲間達。箱入りお嬢様のままでは得られなかったかけがえのないもの。


「さあ、アンドゥハー隊はあの首を討ち取りますわよ!」

「「「はい!」」」


 ふと後ろを見る。その建物は、アンドゥハー商会の本店だ。なんて奇妙な運命だろう。捨て去った過去を今、私は守ろうとしている。それもいい。成長した今では、それも含めて私だ。


「上級魔法《烈火火炎れっかかえん》! お姉様、必ずや勝利を!」



 ☆☆☆☆☆



「姉御、また首が来やしたぜ!」

「敵の本体に近づいてるってこった! けれど邪魔だね……!」


 姉御の〈アイアネリオン〉はぴょいぴょいと飛んで、首の攻撃を回避しちまう。やっぱすげえなこの女。この土壇場でもこのクソ度胸だ。俺は……、この人を勝たしてやりてえ。


「なあ、カルロ」

「わかっているよジャン。その為に俺たちは姐さんについてきた、そうだろう?」

「おいお前たち、何コソコソ話してんだ?」

「姉御、先に行ってください。この首は俺達が止めやす!」

「お前ら……、無理だろそんなもん!」


 ストレートに実力不足だと言われるが、これは姉御の優しさだ。バカで粗暴なクソ野獣モンスターゴリラ女だけど、果てしなく優しく面倒見が良い。


「大丈夫でさあ。姉御から教えてもらったクソ度胸で、なんとか抑えてみせます。なあそうだろみんな?」

「「「おうッ!」」」


 俺とカルロの二人だけじゃねえ。みんな姉御を勝たせたいと思っている。そうじゃねえとイザベル隊について来てねえよ。


「ジャンの言う通りです。だから突き進んでくださいよ姐さんは」

「ジャン、カルロ、お前ら……。すまん! だけど絶対死ぬな。団長命令だ!」

「「「へい!」」」


 姉御の〈アイアネリオン〉は強化魔法で一気に加速し、すぐに姿が見えなくなった。


「やっぱかっけえよな、姉御はよお」

「そうだね、ジャン」

「ついて来てよかったよなあ」

「そうだね、ジャン」

「命令、破っちまうかもなあ」

「そうだね、ジャン」

「そしたら姉御に怒られるかなあ」

「ボコボコにされるね」


 穏やかに返事をするカルロは、多くの言葉を語らなくてもわかってくれる。

 命がけでついて行くお人、最高の相棒、最高の仲間。男として俺は十分すぎるほどに恵まれた。まったくクソみたいな人生が嘘みたいだ。


「クソみたいな人生が、まさかの王国救うかどうかの大勝負だ! 気張れよ兄弟!」

「そっちこそね兄弟!」

「「あの愛すべき暴力クソ女に勝利を! 友情必殺《クソ根性拳ガッツパンチ》!!!」」



 ☆☆☆☆☆



 アンナもジャンもカルロも。みんなみんな私を進ませるために残ってくれた。残る首はたぶん二本。そのうち一本が仕掛けてきた。


「ったく、相手にしている暇はねえってのに――砲撃!?」


 目の前に迫ってきた首に、どこからか魔法砲撃が加えられる。これは……?


『イザベル、大丈夫かい?』

「アーヴァイン兄ちゃん! どうしてここに!?」

『カリナが伝令をくれてね。急ぎ軍勢を集めて駆け付けた』


 さっすがアーヴァイン兄ちゃんだ!


『ちなみに僕も合流してるよ』

「ローレンス!?」

『試作兵器も実験魔導鎧も、ぜーんぶ放出の大売り出しさ。ここは我が友アーヴァインとこの天才の僕が受け持つから、先に行きたまえ』

「わかった。サンキューな!」

『勝てよイザベル』


 アーヴァイン兄ちゃんが短くも力強い言葉をかけてくれる。ああ勝つさ。勝ってやる。私は自分の拳で道を切り開くと約束したんだ。


「マックス魔力で《光の加護》よ!」


 強化、強化、強化。限界まで〈アイアネリオン〉を強化して加速する。あと少しだ。あと少しで本体までたどり着く!


「やっぱりきやがったか、最後の一本!」


 もう一人だ。兄ちゃんやローレンスみたいな援軍は期待できねえ。こいつばかりは自分で倒すしかない。


「どりゃあああああ! 《黄金のゴールデン鉄拳アイアンフィスト》! ――ぐっ!?」


 効いていない――わけではないけれど、デカいダメージは与えられない。やっぱり硬いなあクソ。


「《大流星撃だいりゅうせいげき》!」

「この攻撃は!?」


 空から岩が降ってきて、首にダメージを与えた。これは地属性の魔法……!?


「我こそはスチュアート・スタントン。現女王陛下の孫にして、今は亡き勇猛なる王スタンリーが息子! 剣をとれば無双、魔法を使えば敵なしと称される、我が腕前を恐れなければかかってくるがよい!」


 スチュアートだ。へたれ王子のスチュアートが魔導鎧に乗って空から降ってきやがった。


「その魔導鎧は……!? 空を……!?」

「王家に伝わる魔導鎧、〈キングオブディアマ〉。非常時ゆえに拝借してきました」


 空を飛ぶ魔導鎧なんてものがあったとは。こいつはびっくりした。


「イザベル、こいつはこの僕が抑えます。イザベルは本体を!」

「かたじけねえ!」

「お気になさらず。これこそが王族の義務ですから」


 こいつ、どこか変わった感じがするな。いや、今はいい。私はやるべきことをやる。

 〈八岐大蛇〉のちょうど心臓の位置、赤く脈打っていやがる。たぶん……、あれを破壊出来れば!


「“鉄拳令嬢”よ、よくぞここまでたどり着いた。フゥーハッハッハ!」


 高笑いと共に、クラウディオがぬっとあらわれた。

 私はこいつに負けた。だけど私はチャンピョンだ。無敵の女王だ。私はこいつに勝って無敵の座を取り戻す。最終ラウンドの開幕だ――!

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