第3掌 団長令嬢編
第28話 特務騎士団ジョーカー
前方を確認。大丈夫、敵はまだ気がついていない。接敵まであと十、九、八……。
「《光の加護》よ」
念のためもう一度強化魔法をかけなおす。敵の顔面に一発入れるまで四、三、二……。
「おらあああああッ! 《光子拳》インパクトォッ!!!」
「なんだ――ぶべんらッあ!?!?!?」
光の魔力を帯びた〈アイアネリオン〉の拳が敵の
「貴様、その魔導鎧……! まさか、“鉄拳令嬢”か!?」
「大当たり! 正解者には拳をプレゼントだよ!」
とりあえず視界に入った奴からガンガン殴っていく。こういう周りは敵だらけってシチュエーションは良い。ただシンプルに殴ればいいだけだから。
あ、今間違ってマーカスの機体殴っちまった。大丈夫か? うん、大丈夫そうだな。あいつは丈夫なのが
隊長機はっと……、あいつか!
「お前が隊長だな。私の名前はイザベル・アイアネッタ。えーっと、スタントン西方王国特務騎士団ジョーカー団長! お前の首をもらい受ける!」
「イザベル・アイアネッタ!? て、”鉄拳令嬢”だと……!? 馬鹿な、貴様は二つ山を挟んだ戦場に釘付けのはず……!」
どうやらそういう作戦だったみたいだね。私の騎士団を分断させて、各個撃破を行う。でも――、
「そんなもん越えてきた!」
「嘘だ……! そんな馬鹿な事がありえるか!」
「嘘じゃない。山二つくらい走って超えるのには余裕よ。私の騎士団は体力自慢でね!」
そんな作戦はお見通し……じゃなかったから分断されたんだけれど、山を越えてきて間に合ったからそれでよーし!
「言い残すのはそれだけかしら?」
「……ぐっ! 者共、撤退だ!」
「逃がすかよ! 《
金色のストレートが戦場に煌めく。私の必殺の拳が、敵の隊長機を吹き飛ばした。
☆☆☆☆☆
「アンナ、よく耐えてくれたね」
「ありがとうございますお姉様! このアンナ、お姉様の為なら例え地獄の針山でも喜んで耐えさせていただきますわ! さあお姉様、ご褒美に私の頬に一発叩き込んでくださいまし!」
なんで?
まあいいか。本人たっての希望だし、いつも通り殴り飛ばしておく。
「あ、ありがとう……ござい、ます……わ……ぐふっ……」
「隊長!?」
「アンナ隊長!」
気絶したアンナの下に、アンナの部下の少年少女たちが駆け寄る。
戦場で功績をあげ、さらにはトーレス率いるダイヤの騎士団までぶちのめした私たちイザベル隊は、新設されたジョーカー騎士団へと昇格した。
ジョーカー騎士団は四大騎士団とは別の独立遊撃部隊で、四大騎士団では手の届きづらい特殊な作戦を担当する。まあ、つまりはていのいい
アンナにはその新メンバーの中でも、比較的おりこうさんな連中をつけてある。あいつはテンションが上がるとちょっと変な事を口走るけれど、基本的には軍務の経験も豊富な良いとこ出身のお嬢様だ。頭も切れるし、上手く部隊を率いている。
「ジャン、カルロ、新しい魔導鎧はどうだい?」
「最高ですよ。さすがはローレンスの兄貴だ! 良い仕事をしやがる」
「整備性も抜群ですよ! でも、山二つ越えさせるなんて無茶はあんまさせないでください」
新しい魔導鎧。そう、チンピラ崩れだった野郎共も、今で立派な魔導鎧乗り様だ。
ローレンスが開発した新型魔導鎧〈ストネリオン〉。少ない魔力の持ち主でも稼働可能なように設計されたコアを積んだ機体だ。
派手に魔法を撃ちあうってのはかなわないけれど、こうやって戦闘に仕える程度には実用的。全体的に運動性に重きをおいた、〈アイアネリオン〉の廉価版みたいな機体だ。
この革新的な試作機をもって、私の率いるジョーカー騎士団は機械化を果たした。……らしい。意味はよく分からないけれど、ローレンスが言ってた。
「それにしても、ロメディアスの連中は懲りないもんだなあ……」
「ま、この任務でシフト終了。しばらく非番でさあ」
私が騎士団に入団して以来――というかジョーカー騎士団を率いるようになってからですら、もう何度もロメディアス中央帝国の奴らとやりあってる。
だから前線と後方を行ったり来たりだ。しばらく前線で防衛の任務についたら後方と交代。とりあえずの休暇となる。
「休暇かあ……。何しようかしら……?」
まず王都の孤児院には行くでしょ?
お菓子や洋服、おもちゃをたっぷりと持って。
あいつらちゃんと良い子にしてっかな?
それから新しいトレーニング機器を買って、戦場だとおろそかになる部分のトレーニングをして、実戦練習変わりに王都の裏路地でチンピラしめて、あとは……。
「そう言えば、姐さん。なんか用事あるって言ってませんでしたかい?」
「用事……? ――あ、そうだ! よし。急いで王都に帰るぞ。ジャン、すぐにみんなをまとめな!」
「へい!」
「カルロ、魔導鎧隊の稼働準備頼んだよ。山越えで無茶させてるから通常速度で良い。整備は帰ったらローレンスに投げる!」
「へい!」
おっとうっかり。大事な用事を忘れていた。
さっさと帰ろうか、王都へ!
☆☆☆☆☆
「イザベルが私の誕生日を覚えていてくれて嬉しいよ!」
「まあ、おおげさですわお父様。家族の誕生日を祝うのは当然ですことよ」
王都。アイアネッタ家王都邸宅。父であるイアン・アイアネッタ公爵の誕生日を祝うべく、私は久しぶりに家族と過ごしていた。
「それにしても騎士団の団長だなんて。私たちの可愛いイザベルが、こんなに立派に……立派になって……ううっ……」
そう言って、私の成長を祝って涙ぐみだすお父様。
おいおい、これどっちの誕生日だ? 私か?
「それにしてもイザベルちゃん、あなたちゃんと食べているの? 前線は粗末な食事で苦労しているのではなくて?」
「それは大丈夫ですわお母様。ね、セシリー?」
想定通りの質問だ。私はあらかじめの対策通り、横に控えるセシリーに話をふる。
「はい奥様。貴族出身の騎士団長ともなれば、給仕係やコックの帯同が認められております。当然私も帯同し、お嬢様の衣食を手伝わせていただいております」
「それなら安心ね」
よし、いい仕事をしたよセシリー。
彼女の言う通り、私にはコックなどが帯同する権利が認められている。だけど私は、部下たちと同じ飯を食ってる。同じ釜の飯を食ってこその戦友だ。戦場でお上品な料理なんてクソ食らえだ。
セシリーにはついて来てもらっているけれど、基本的に後方で待機してもらうことが多い。柔らかい微笑みが可愛らしいセシリーは、みんなの人気者だ。
もし手を出す奴がいたらシバく。
この世に生まれたことを後悔するほどシバき上げる。
「うん。俺もカリナから聞く限り、イザベルはよくやっていると思うよ。難しい立場の部隊だけれど、上手くまとめ上げている」
そう言ってアーヴァイン兄ちゃんもフォローしてくれる。心配症なお父様お母様を安心させてやるためには、これくらい言っとかないといけない。
それにしても
それはもちろんイザベルとしての誕生日だ。最近たまに思うことがある。私とイザベルは本当にイコールの関係なのかと。
あの女神が言うには、元々イザベルとして転生した状態で何かショッキングな出来事があって、前世の記憶が目覚めたらしい。
確かに私の中にも、ワガママなイザベルとして生きた記憶がちゃんとある。けれどあの前世の記憶が目覚めたパーティー以来、心の奥底に引きこもっている気がする。まるで強い私に全てを任せているかのような……?
「イザベル……?」
「え、あ、はい! なんでもないよ、アーヴァイン兄ちゃん」
ま、ごちゃごちゃ悩んでもしょうがない。私は“鉄拳令嬢”イザベル・アイアネッタだ。どんな困難な道だって、私は私の拳に誓って歩み続けるよ。
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