第19話カエル:反転した

 急に世界が反転した。

 いや、私が反転した。

 カエルの能力のようだ。


「ちょっと、どうなっているんだ?」


 宇木は宙に浮いていた。


「どうやら、戦うことになったらしいわ」

「ええ?そんな……て、わあ!おまえ、スカートが」

「大丈夫よ。短パンよ」


 私は上下逆さまに浮いておりスカートの中身が丸見えだが、いつも短パンを履いているから大丈夫だった。


「それはよかった」

「あら? 本当に良かったの? 女性のパンツを見たかったんじゃないの?」

「ば、ばか。そんなことは」

「あらあら、顔を真っ赤にさせて」

「うるさい。これは頭に血が溜まっているんだ」


 たしかにそれはあると思う。事実、わたしも頭に血が溜まっているのを感じている。長続きしたらやばいわ。


「ところで、これはもしかして」

「そうよ。カエルの能力よ」

「じゃあ、なんとかしてくれよ」

「ダメね」


 私はカエルに逃げられた手を見せた。


「逃げられたのか」

「そうよ。わたしもまだまだね。動揺してしまったわ」

「どうするんだよ?」

「あなた、どうにかならないの? 同じ能力を持っているんでしょ?」

「うまく使えないんだよ。うまく使えたら困っていないよ」

「使えない男ね」

「すいません」

「冗談よ」

「このタイミングで言うな!」


 さて、冗談どころではないわね。どうしたものか。


「あなた、カエルを探して」

「さっきから探しているけど、見つからないよ」

「もっとよく見て」

「あ!あれは?」

「……困ったわね」


 指差す方向を見たら、宙には浮く凶器が見えた。岩・ガラス・鉄パイプ、河川敷に落ちていたゴミたちは狂気じみて見えた。


「どうする?」

「どうするもこうするも、どうしようもないでしょ。くるわよ」


 それらは飛んできた。


「わああああ!」


 仕方ないわね。


「グラビリティ」


 飛んできたものは下に落ちていった。私たちも下に落ちた。宇木は川に落ちた。


「ぷはー!死ぬかと思った」

「死ねばよかったのに」

「今何か言いました?!」

「いえ、何も」


 思わず冗談を言ってしまった。少し気が緩んだのかもしれないわ。


「ところで、何が起きたんだ?」

「落としたのよ」

「落とした? やつはなんの目的で?」

「やつじゃないわ」

「じゃあ、誰が?」

「私よ」

「……へ?」

「私が落としたのよ」


 宇木は理解していないようだった。


「なにを言っているの?」

「私の能力よ」

「……へ?」

「私が能力で落としたのよ。たぶん、重力の能力ね」


 まだ理解していないようだった。


「冗談だろ?」

「冗談じゃないわ。本気よ」


 私は真っ直ぐに宇木を見た。


「……マジか」

「マジよ」


 と、ナイフが飛んできた。

 が、ナイフを落とした。


「グラビティ。これがある限り、浮く能力には対応できるわ」


 私はナイフが飛んできた方に能力を使った。その方向一体が重そうになっていた。草木も下に重そうにたれていた。


「おそらくどこかに……」


 と、何かが飛んできた。

 が、それを落とした。

 で、影からカエルが飛んできた。

 ザッ!

 私の頬が少し切られた。カエルの手には小さなナイフが持たれていた。少し反応が遅ければ傷は深かっただろう。


「残念ね」

「そうでもいないさ」


 そう言うと、カエルはナイフを私に向けて何かを唱えた。

 ?

 私の目の前が赤くなった。意味がわからなくなり、むやみに手を伸ばした。手に当たるのは赤い液体……血?


「まさか、血を浮かしている?」

「!?さあね」


 どうやら図星らしい。おそらく先ほどのナイフにはそういう能力と関係があるのだろう。このままではやばい。


「うらああ!」


 私は闇雲に突っ込んだが、よけられた……と思う。手応えはなかった。


「ほっほ。さすがに命がかかると冷静にいれないか」


 それでも私はむやみに突っ込んでいった。私に出来ることはそれだけだと思った。いたるところに血が飛び散った。


「ほっほ。血迷ったか。当たらん当たらん」


 と、私は地面に手がついた。


「はあはあ。くそ」

「ほっほ。限界が来たか。ようやく血がなくなったか」

「ようやく血が揃った・グラビティ!」


 宙に舞った血が一気に地面に落ちた。それは滝のような衝撃を起こした。体が痛かったが、血が少なくなったせいか、思った程は痛くなかった。


「がは!」

「そこね」


 私は赤い液体の中を溺れる小さな生き物を掴んだ。それは先程まで掴んでいた感覚と同じだ。逃がすものか。

 私は集中して掴んだ。すると、何かが見えてきた。ああ、また記憶が入ってくるのか……


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る