あやしあやかし

すけだい

第1話プロローグ

○プロローグ


 空から降ってきた、それは、今。


 人が求めるものは、自分にないものらしい。

 実際に、英語のwantの語源がそうらしい。

 だから、自分にあるものは求めないらしい。

 私は何故、そういうことを考えているのだろうか? 私は頭の中で頭を悩ませた。そして、頭の中で頭を悩ませたということは、その頭の中で悩んでいる頭の中でさらに悩んでいることとなり、さらにその頭の中には……

 それを言い始めたら無限である。そして、それと同様に欲望も無限である。自分にないものが無限にある。

 無限にある人の欲望を体現したものに、娯楽がある。小説、漫画、アニメには人の欲望が多く表現されている。そこには、無限の欲望、無限の自分にないもの、無限のいろいろなものがある。

 例えば、超能力の物語。火の能力、空飛ぶ能力、怪力の能力、そういった能力もので物語が溢れている。それは、人々がそれを求めているからであり、自分にはないからである。人は火を発することができないから火の能力を求めるのであり、空を飛ぶことができないから空飛ぶ能力を求めるのであり、怪力がないから怪力の能力を求めるのである。要するに、現実逃走である。

 他には、妖怪や幽霊の物語。そういったものは人気が出る。ということは、人は妖怪などを求めているのである。それは、人々には妖怪などが見えないということを暗に示している。見えているのなら珍しくもなんともないから興味が出ないし人気も出ない。人々は、暗に妖怪を求めている。要するに、現実逃避である。

 さらには、異性との運命的な出会い。普通ではなく、運命的な出会い。そんな出会いは無い。現実逃避である。

 ありえない運命の出会いの1つ目。少女が朝に遅刻しそうになってパンをくわえながら走っていたら道の曲がり角で少年とぶつかる、という出会い。いや、朝遅刻しそうになったらパンなんかくわえずに朝食を抜くだろ。おっさんでもしているところを見たことないぞ。仮にパンをくわえて走っていても、道の曲がり角で少年とぶつかることはないだろ。というか、少年も遅刻しそうになっているだろ。そもそも、遅刻しそうになるか?……それはあるか。

 ありえない運命の出会いの2つ目。少女が悪者に追われているところに出くわして助ける、という出会い。いや、少女が悪者に追われているところを見たことがない。少女を追いかけるなんて鬼ごっこの鬼くらいだぞ。仮に少女が悪者に追われていたとしても、助けることできないぞ。警察を呼んでください。そもそも、悪者はいるか?……それはいるか。

 ありえない運命の出会いの3つ目。少女が空から降ってくるのを、少年が受け止める、という出会い。……

 ……それはあるのか?

 もう一度言おう。


 今、私の頭上から少年が降ってきて、少女の私が受け止めようとしている。


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