第51話 善光寺境内での念仏賦算





 奈良井、塩尻、松本、麻績おみ姨捨おばすてと街道筋の順路をたどりますと、いよいよ目指す善光寺でございます。


 再建されたばかりの豪壮な堂宇が、秋の光に燦然とたたずんでおりました。

 その神々しいお姿に、わたくしたち時衆は地に額をつけてひれ伏しました。

 だれからともなく念仏称名が湧き起こりました。

 

 なむあーみだーぶつ

 なむあーみだーぶつ

 なむあーみだーぶつ

 

 参詣の善男善女が立ち止まってこちらを見守っています。

 一遍上人さまは頭陀袋から念仏札を取り出し、老若男女に配り始められました。


 人びとは困惑したように後ずさったり、手を引っ込めたりしておりましたが、ひとり受け取り、ふたり受け取りするうちに、逆に多くの手が伸びてまいりました。


 他阿弥陀仏(真教)さまをはじめとするわたくしたち弟子一同も上人さまに倣いますと、たちまち南無阿弥陀仏の名号札が善光寺の境内に乱舞いたしました。


 善光寺は源頼朝夫人・北条政子さまも帰依されるなど、女性の信者を大切にする霊場として知られており、女人の参詣者が多いのも華やかな情景でございました。


 女人禁制の高野山麓にあっては、わが身を不浄と見なされる屈辱に耐えねばならなかった念仏坊、超二房、そして、わたくしの3人の尼にとって、とりわけありがたい霊場でございます。ありのままを受け入れてくださる善光寺さまに、本当の仏さまにお会いできた喜悦を、それぞれの胸のなかで噛みしめるのでございました。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る