双子

猫縞 狸鼠(ねこしまりす)

双子

二人で一人、そう思える程に私達は同じ時を過ごしてきた。

この世界に居るのは私達とその他大勢、私、ハルと妹のナツは一卵双生児で見た目はもちろんやる事なす事 すべて同じの双子の姉妹だった。

だからこそ私達はこの世界にいる他の人達とは別に二人だけの世界を生きているという感覚があった。

こんな話をしても他の人は分からないだろうし分からなくてもいい。

私にはナツさえいれば他には何もいらないのだから。


「ナツ、帰りどこ寄ろっか?」

「聞かなくてもわかるでしょ?」


お互いに顔を見合わせて「せーのっ」の合図で行きたい場所を言う。


「また一緒だね」

「私達は二人で一人だからね」


これが私達の在り方であった。

そんなある日の放課後、クラスへ迎えに来たナツが見当たらず近くにいた人にナツを見なかったか聞くと旧校舎の方へ歩いていったのを見たという。

なぜに旧校舎? ナツの思いがけない行動に少し戸惑いながらも旧校舎へ足を運んだ。

古びた旧校舎を歩いていると声が聞こえた。

私達は強く繋がっているのでそれがナツのものだと感じ早足に歩みを進めた。


「ナツー? こんな所でなにして――」


曲がり角を曲がると信じられないものを目にした。

ナツが知らない女とキスしていた。


「ナ、ナツ……?」


震えた声で妹の名前を呼ぶと、ナツは慌ててその女と距離を取った。


「ハル!? こ、これは違うの」


何が違うの? そう言いかけた時だった。


「もういいじゃないナツ。”私達”が付き合ってるって言っちゃいなよ」

「カスミ、それはまだハルには……」


強烈な吐き気がした。

私達とは私とナツの事だ。

ナツとあの女の事ではないのにナツはそれを自然と受け入れている事に怒りさえ覚えた。


「つッ!!」

「あ、ハル!?」


あの女に殴りかかる勇気さえなく私は逃げ出していた。

そして息を切らし、気が付けばあたりは真っ暗になっていた。


「ナツ……」


もちろん返事はない。

違う世界で生きていたのは私だけだったのだと悟った。

そして私は最愛の妹へ双子という枷から解き放つ為に暗闇へと一歩足を踏み出したのだ。

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双子 猫縞 狸鼠(ねこしまりす) @komi_

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