第15話 「好きな場所? 布団の中ですけど?」
「ねぇねぇ心弥~。もう一週間経つよ~?」
そうなのである。俺が『正義の使徒』に顔を出してから一週間。
つまり、東堂とかいうイケメンを誤ってぶっ飛ばしてしまい、他の異能者の人たちに妙に距離を置かれ(ココナちゃん以外)、なんか大人の偉そうな人たちに「これからの君の活躍には、とても期待してるからね!」みたいなこと言われてから、一週間経つのだ。
「正義の使徒って奴らのところ行かないでもいいのー? なんか、またすぐ来るように呼び出されてなかった?」
そうなのである。俺が『正義の使徒』に顔を出してから一週間。その後一回も彼らと接触してないのである。
だって……。
「だって無理じゃん!? あんなノリになって逃げるように帰ってさっ。次はどんな顔で出向けばいいってんだよ!? ムリムリムリ絶対行きたくない」
「え~? 普通に行って、また喧嘩売られたら片っ端からぶっ飛ばせばいいじゃん。前回みたいに」
「できるかそんなことっ! ていうか、ココナちゃんに誘われて舞い上がってついて行っちゃったけどさぁ。そもそも学校も禄に通えない奴があんな秘密組織つーか地球防衛隊みたいな連中に混じってやっていけるわけがないって分れよなぁ、まったく」
「そんなことを偉そうに言われても……。取りあえず、せめて布団から出なよ」
この一週間、家どころか部屋どころか布団からもあんまり出ないひきこも生活を送っている俺である。
お布団だけが世界の悪意から俺を守ってくれる聖域なのだ。お布団大好き。
いや、一応やばそうな魔物をシノが感知した時は速攻行って速攻倒して速攻で戻ってきたけれども。
「むぅ。まぁもう夕方だしな。流石に布団からは出るか。いい加減買い物も……あぁでも外には出たくねぇなぁ」
「魔物さえ倒してくれれば取りあえずはいいけどねぇ、ウチは。でもあのココナって子と会いたいんじゃなかったの?」
「会いたいつーか、応援はしたいけど……この前みたいな醜態を晒すようじゃ下手に会わない方がいいんじゃないか? いやきっといいに違いない。って布団の中で冷静に考え続けた結果そう思い至った」
東堂をぶっ飛ばしてしまったあと、すぐに正義の使徒のお偉いさんに連れて行かれ、今後の活動あれこれについて聞かされていて(ぼーっとしていて実は殆ど内容を覚えてないけど)ココナちゃんと話す機会はなかったのである。
だけど、仲間をいきなり煽った挙句にぶっ飛ばされて怒っているかもしれないじゃないか。
いや、きっと怒ってるに違いない。
推しを怒らせてしまうくらいなら直接会わずに草場の影から応援してたほうがいい。絶対そう。
「別に醜態とかなかったじゃん。ちょっと人間一人半殺しにしただけで」
それがもう割と極まった醜態なのだが、自称妖精には分らない感覚なのかもしれない。
なんであの時かっこつけようとしちゃったんだろう? 普段の俺だったら絶対あんなことしなかったのに。
「……これが、大きすぎる力を手に入れた代償――ってやつなのかな?」
「そんなシリアスぶられても……。ただ好きな子の前で調子こいてやりすぎただけじゃない?」
はい、そうです。死にたいです。
しかもぶっ飛ばした後、フォローすることもできずにただ怪我人の前で突っ立っていただけだったし。頭ん中真っ白だったもんなぁ。
「っていうかさ、まぁ自分から正義の使徒にもう行かないっていうなら別にそれでもいいと思うけど。あっちから訪ねてきたらどうするつもりなの?」
「え? だって、俺の居場所を探すなんて無理だろ」
なんの為に変身なんぞしていたと思っているのだ。
それに、正義の使徒から帰る時もシノに感知してもらいつつ、結構な速度で移動したからな。尾行とかはされてないはずだ。
「んぇ? 心弥のこと感知で探すのは無理だろうけど、単純に顔がバレてるんだから聞き込みとかで普通に居場所バレるんじゃない?」
――――なんて?
「は、はい? 顔バレって……だって、俺は変身して」
「ん? 変身はしてるけど、顔は別に変えてないよ?」
――――なんて?
「お、おまっ!? えっ、えええぇぇえッ!?」
「ふぁ!? な、何いきなり叫んでるのぉ心弥っ?」
ま、まて。まてまてマテ。
あの時の会話を思い出せ……あの変身をシノに頼んだ時の……。
『もう一つ。俺もあの子みたいに変身とかできるか? 見た目を変えるだけでもさ』
『心弥は力のコントロールが出来てないみたいだし、意図的に変身とかするのは無理じゃないかな? 見た目だけ変える、ようは変装でいいならウチの力でやってあげてもいいけど』
『お、じゃぁそれ頼むわ。できれば、格好いい感じで』
……言ってない。
一言も『顔を隠せ』とは言っていないぃ!?
「心弥の変身、ちゃんと格好いいよ? ロングコートでばっちり決めておいたから。しかもコートの裏側がうっすら発光してるという芸細なエフェクト演出つき! 無意味に頭の上に変なヘッドセットみたいなのもついてるし。心弥の見てたアニメをいくつか参考にしてみたんだけど、かなりクールな感じなってるからねっ」
のぉおおおおおおおおおおおお!!!???
じゃじゃじゃじゃじゃああ俺って今の今まで素顔のままで厨二病みたいな格好して全力でかっこつけてたのかよ!!?
あ、理解。
もうわたくしは二度と布団から出れぬ
「ちょっ!? なんでまた布団に戻るのさ心弥ってば!?」
「俺には、やっぱり世界は救えなかったよ……」
「はぁ!? ちょっ、何にショックを受けてるかだけでもまずは教えてよぉ!」
お前にはきっと分らないさ……今の俺の気持ちは……。
恥ずかしさと羞恥といたたまれなさが入り交じって絶望へと昇華したこの感情はな……。
グイグイと小さな体で俺の布団を引っ張るシノから、布団バリアーを死守する戦いにしばらくいそしんでいたら。
ぴんぽ~ん
珍しく玄関のチャイムが鳴った。
「なんだ? 客か?」
あまりに珍しい事態なので呆然としてしまい、しばらく動きが硬直してしまう。
ぴんぼ~ん
しばらく間をあけて、再度チャイム。
「行かなくていいの? 心弥」
「……い、行きたくない」
今までの話を総合すると、それこそ正義の使徒の誰かかも知れない。
だったらここは居留守を決め込むべきだ。
「ふーん、分った」
分ってくれてなによりだ。
シノが布団をひっぱるのをやめたので、安心してお布団結界の中で居留守寝込みを決めこめる。
……………………あれ? 今シノはどこにいる?
「はーぃ。鍵あいてますよー?」
ガバッ!!?
あのちびっ子!! なに勝手に来客でむかえてんだごらぁあああ!!?
「まてまてまてシノなにやってっ――!!」
バタバタと玄関に駆けだしていくが、慌てたかいもなく既に玄関は開け放たれていて。
そこには。
「あ。えっと、お邪魔、します?」
黒髪に学生服の天使が戸惑った表情で立っていた。
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