第161話 聖属性
お風呂から上がって、着替えて、ようやっと朝ごはん。
朝ごはんを食べる時はコンラッド様も誘った。だって私を見た時少しだけしょんぼりした顔になったのだもの。きっとこってり絞られたに違いない。
カーバニル先生は怒らせると怖いのだ。
「それで、アンタまた何をしてきたの?」
「コンラッド様から聞いていないの?」
先生の質問に私は首を傾げる。コンラッド様のことだからきっと伝えていると思ったのだ。隣に座るコンラッド様を見上げ、ちょっと首を傾げると「勝手に話すのはまずいかと思って」と言われる。
なるほど確かに。一応、勝手に聖属性の力を使ったことになるものね。
「コンラッド様はサリュー様の状態は聞いてますか?」
「いや、詳しいことはまだ。たぶんルティア姫の持っている情報と同じだよ」
「そうなんですね……」
「サリュー様に何かあったのね?」
私は先生の言葉に頷く。どのみち先生に話すことは伝えてあるし、この場にいるメンバーなら知っても問題ないだろう。
私は念の為、持ってきていた秘密のお話をする時の魔法石をユリアナに用意させる。もしもさっきの私達を見て、聞き耳を立ててる人がいたら困るしね。
「食べながら話すのは行儀が悪いのだけど、この後はシャンテやアリシアとも予定があるから……先に話しちゃうわね」
「ええ、ドウゾ」
「実は……サリュー様が呪われてしまったみたいなの」
「呪われた、じゃなくてみたい、なの?」
先生は眉間に皺を寄せる。でも私は呪いと確信できるほど、呪いに詳しいわけではない。呪われてはいるのだろうけど、ウィズ殿下の時とは手応えが違うのだと話た。
「手応え、ねえ……」
「そうなの。常に聖属性の術式を展開してないと見えないみたいだし……ウィズ殿下の時はすごく魔力が抜ける感覚があったけど、サリュー様はそうじゃなかった」
「呪いの性質が違うのかしら?」
そういって先生はコンラッド様を見る。コンラッド様は、少し首を傾げてから「呪い」はかけ方によって違うと教えてくれた。
ウィズ殿下の時はすぐさま治さなければ、命の危機に瀕する状態だったけれど、サリュー様はそうではないということだろうか?
でも目が見えないってとても不便だと思う。サリュー様が普段どれだけの仕事を熟されているかは知らないが、その間仕事が滞ってしまうわけだし。
たとえば、足が動かない、手が動かない、というだけなら介助してもらえば仕事はできる。世の中には代筆業を営む人だっているぐらいだしね。
でも見えないということは、今目の前で読んでもらっている内容が本当かどうか判別がつかない。詐欺を働こうと思えばいくらでもできてしまうのだ。普段なら弾く書類も、勝手に紛れ込ませてしまえるし。
それってとても困る。
それに呪いの効果が弱い?と言っても呪いは呪い。体に不調をきたすもの。そんなの早く解いてしまった方がいいに決まっている。
「聖属性の力でも呪いが解けなかったの」
「解けない、ということはないはずなんだけどねぇ。実際、目は見えるのでしょう?」
「そうよ。でもずっと魔力を注ぎ続けないとダメなの。まさか私がサリュー様の横でお仕事の手伝いするわけにはいかないでしょう?」
「そうね。そんなことしたら変な噂が飛ぶわ」
それはきっとサリュー様の心を煩わせる類のものだ。ただでさえ大変なサリュー様に余計な心労をかけたくはない。
どうしよう、と考えているとコンラッド様が先生に質問を投げかける。
「素朴な疑問なんだが……聖属性の術式、というものは魔法石に入れられないのだろうか?」
「入れられるわよ。途方もなく良質な石ならね。でも術式だけじゃ意味がないの。そこに聖属性の力を持った魔力を流さないとダメなのよ」
「つまり試したことがある?」
「ええ、以前研究した者がいたわ。魔石の中でも特に良質なものにようやく入れられたけど、魔力を流しただけじゃ発動しなかった。聖属性持ちが魔力を流してようやく使えるの。まあ、魔力量の少ない神官達は重宝するでしょうね」
ただそのための魔石を入手する方法が今のところないけど、と先生は返す。良質な魔石は、それはもうとてつもなく強い魔物でないと手に入らない。
しかもその魔石に術式を入れても、聖属性持ちじゃなきゃ使えないなんて……
「……いっそのこと、私の魔力が魔法石に蓄積できればいいのに」
ポツリと呟くと、先生がすごい顔で私を見る。え!?何か変なこと言った!?
ものすごい顔になってるけど大丈夫!?!?
「そうか!そうよね!!聖属性の術式は入れられるんだから、それと一緒に魔石に魔力を貯める術式を開発して魔力を流し込む。それを一緒にまとめておけば発動させられないかしら……??」
「えっと……??」
「ありがとう!ちょっと試してくるわ!!」
「え、でも石は!?」
「アマンダからぶんどってきたのがあるのよ〜」
ほほほほほ〜と笑うと、先生は猛スピードでご飯を食べて実験室に向かってしまった。あれ、大丈夫なのかな?
「聖属性、というのは不思議な属性なんだね?」
「そう、みたいですね?」
「ルティア姫は聖属性持ちなのだろ?」
「そうですけど……聖属性に関する記述って実は少ないんです。この力だけは魔法石無しでいつも使ってますし。術式も一つだけなんですよ」
他の属性の術式は数他あれど、何故か聖属性はたった一つしかない。それは使える人間が少ないからなのか?それとも実験に協力させるほど魔力を保有していないからか……兎も角、ファティシア王国でもそういうもの、ということになっている。
「特別な力、ということなのかな?」
「うーん……特別は特別なんでしょうけど……初代の聖なる乙女がスタンピードを消しとばすくらいの力を持っていて、怪我人もすぐに治せたりしたそうなんです。だから特別、という認識になってるのかなあ?」
「スタンピードを消し飛ばすとはすごいな」
「昔はファティシア王国も魔力量が多い人がたくさんいたみたいです。どんどん少なくなって、今は貴族階級の人達ぐらいしか属性の術式も使えません」
「それで魔力を流すだけで使える魔法石が普及したんだね」
そうなのだ。魔法石が普及したのはどんどん魔力量が下がり、属性持ちが減ったから。もちろん、今でも一般の人達の間に属性を持った人も生まれるけど貴族に比べたら本当に少し、だ。
「ラステア国は魔法石も魔術式もないんですよね?」
「そうだね。属性の概念もないし……」
「なんだかとっても不思議です」
「でもファティシアからもらった魔法石のおかげで魔力過多の畑は格段に作りやすくなったし、安定してポーションを作れるようになったからこれからはうちも考えていかなければいけないと思うんだよね」
「便利に使えるものは使いたいですものね!」
ないならば、作ればいいのだ!
***
「ないなら作ればいい……そんなふうに思っていた時があったわね……」
グッタリした先生を前に、私は手に持っていた魔石がまた割れてしまった事実を謝る。まるで小離宮に引っ越してきた頃のライルのようだ。
「術式はこれしかないですもんね」
「これだけは省略しようがないのよね。自分で使えないから」
「え、そうなんですか!?」
「そうよーアタシに聖属性があったら、実験し放題よ」
「そっかあ……二つにするより、一つにできないかなーって思ったけどそれも難しそうです?」
「今現状で聖属性の術式を入れられないからね!!そんな二重に入れたらせっかく壊れなかった石も壊れるわよ!!」
先生がキーッ悔しい!!と袖を噛んで歯軋りをする。確かに私が持っているよりも先生が持っていた方が有意義に使えたかもしれない。
だが残念ながら現状使えるのは私だけだ。
サリュー様の目が見えなくなって数日経ったが、状況はあまり変わらない。体調も芳しくなく、聖属性の力を使っても一時的に見えるだけだ。
そしてその一時的に見える時間、長さにすると一時間か長くても二時間ほどでサリュー様は仕事を熟している。その間私はサリュー様とお茶をしてることになっているけれど、毎日会うのって他の人から見てどうなのかしら?
ひとまず、ウィズ殿下がサリュー様大好きなことだけは確かなのでその辺の不安は全くないけれど、時折寂しそうな表情を浮かべるサリュー様を思うと早く治してあげたい。
犯人もまだ見つからないし、八方塞がりな状態に先生の周りに散っている紙を拾い集めながらため息をつくのだった。
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