第4話 対策を立てましょう!
侯爵と言う大人の協力者を得るために、私は一つの提案をした。
「お兄様が言う通り、お父様の視察を止めることはできません。ですが、視察について行くことはできると思うのです」
「ついて、行ってどうするのです?」
「侯爵には視察に出るより前に魔法石を作って頂きたいの。防御に特化した魔法石を」
「防御の……?つまり姫殿下は陛下の馬車に同乗して一緒に事故に遭うおつもりですか!?」
「はい」
私は大きく頷く。ロイ兄様が不安げな視線を寄越したけど、それ以外にお父様を救う手立てはないのだ。
因みに魔法石とは魔術師が色々な魔術式を封じ込めた石。
この世界の人間は大なり小なり魔術が使えるけれど、生活魔法が中心であまり大きな魔術を使える人間は多くない。
そして、大きな魔術を使える者は国や有力者に仕え、日々研究を行っていたりする。そんな中で発明されたのが魔法石だ。
使う本人に魔力が大してなくても、魔法石に刻まれた術式がきちんと発動すれば問題なく使える。
少ない魔力で大きな効果が出るので戦争に使われたりすることもあるが、基本的には生活に根ざした使われ方が多いだろう。
ただ問題は生活に使うような魔法石は安価な宝石でも十分役目を果たしてくれるが、防御や攻撃に特化した魔法石は高価な宝石を使わねばならないと言う所だ。
私は三人に少し待っていてもらい、一度自分の部屋に戻る。
そして引き出しの奥に大事にしまっていた宝石を取り出して、もう一度アリシア達の待つ部屋に戻った。
「侯爵、この宝石なら強い魔術式も入れられると思うのです。これに防御魔法を入れてもらえますか?」
「ルティア!それは母様の……!!」
「はい。形見の宝石です。ですが、お母様もお父様を助ける為なら構わないと言われると思うんです」
澄んだ蒼い宝石は私の手の上でキラキラと輝いている。侯爵は私の手から宝石を受け取りジッと見つめた。
「確かに、これなら……上級の防御魔法が入れられます。しかし、よろしいのですか?防御魔法が発動してしまうと、この宝石は壊れる可能性がありますよ」
壊れる、と聞いてほんの少しだけ躊躇してしまう。私だってアリシアの話を全て信じているわけではない。
大切な、大切なお母様の形見を魔法石に変えてしまうのも本当はイヤだ。
「貴女がお嫁に行くときに持っていってね」
と私に下さった蒼い宝石。
魔法石は使い続ければいずれ壊れてしまうもの。
特に防御や攻撃に特化させたものは一度の負担が大きい。いくら良い宝石でも壊れる可能性の方が高いのだ。
「正直言えば……イヤです。でも、私にはこれぐらいしか上級の魔法を入れられる宝石はありません。それに子供が宝石を欲しがるのもおかしいでしょう?」
「姫殿下であれば————いえ、そうですな……」
侯爵は私と兄様の微妙な立場に口を噤む。
「使わなかったらその時はまたしまっておけば良いのです。侯爵、お願い致します」
私はジッと侯爵の顔を見た。そう、アリシアの話がただの妄想か夢物語であればこの宝石を使うこともない。
しかし現実に起こることならば、とても大事な守りとなる。
すると侯爵はアリシアに向き直り、崖から馬車が落ちると言う話を詳しく聞き始めた。
「アリシア、馬車が崖から落ちるといったね?それはどのように?」
「崖が崩れてそのまま崖の下に落ちるのです」
「崖の下、か……殿下、もちろん王宮の馬車は強化魔法の入った魔法石が嵌め込まれていますよね?」
「それは、当然……王族の乗るものですからね」
「それでも亡くなる、と言うことか……」
「えっと……多分ですけど、箱は潰れなくても中身はダメなんではないでしょうか?」
「アリシアどう言うことだ?」
私達はアリシアの言葉に首を傾げる。馬車自体に強化魔法の魔法石が嵌め込まれているなら、それを上回る攻撃用の魔法石でないと壊すことはできない。
彼女は私に箱とクッキーを用意できるかと聞いてきた。
言われるままに箱とクッキーを用意すると、彼女は箱の中にクッキーを一枚入れて侯爵に箱に強化魔法をかけてもらう。
そしてそれを持ってベッドの上に立ち、高い位置から箱を落とした。
強化魔法がかかっている箱はもちろん何ともない。
「お父様、強化魔法を解いてください」
「あ、ああ……」
侯爵は言われるままに強化魔法を解く。すると中に入っていたクッキーは砕けていた。そこで初めて彼女の言いたかった事がわかる。
「そうか。いくら外からの攻撃に強くとも、落ちる衝撃は中にいる人間が防御しなければ叩きつけられるのか……」
「はい。多分、それでお亡くなりになったのだと思います」
私としては単純に守る為の防御魔法と思っていたが、目の前で説明されその場面を想像してゾッとしてしまう。いくら魔法が使えても咄嗟に自分の体を防御できるわけがない。
侯爵は箱と砕けたクッキーを見て考え込む仕草をした。
「しかし、普通の防御魔法では崖下に落ちる衝撃に耐えられるだろうか?」
「難しいですか?」
「試したことがないので何とも……」
「お父様、普通の防御魔法ではなく水を使ったらどうでしょう?」
「水?」
「馬車の中いっぱいに水があったら衝撃が吸収されると思うのです」
「でも水でいっぱいになったら私達の息が続かないわ」
「それに狭い中じゃ水があっても衝撃が吸収されるかわからんな」
「うーんと……それじゃ、水をスライムみたいにするとか……?」
「……すらいむ?」
私が首を傾げると、アリシアは手で形を取りゼリーみたいなぷにぷにの動物なんですと話す。彼女の前世とやらではそんな動物がいたのかと聞くと想像上の動物だと言われた。
「水を水のままでなく、柔らかくすると言うことか……それでいて呼吸ができるように……」
侯爵は物凄く考え込んでいる。崖から落ちても安全に助かる方法。今度はそれを考える為に私達は頭を悩ませてしまった。
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