ポンコツ王太子のモブ姉王女らしいけど、悪役令嬢が可哀想なので助けようと思います〜王女ルートがない!?なら作れば良いのよ!〜

諏訪ぺこ

第一章

第1話 待ってました!婚約破棄!!

 今日は王立アカデミーの卒業パーティーである。子供の晴れ姿を見ようと、沢山の親達がアカデミーに訪れていた。

 卒業生の一人である私は一国の王女らしく挨拶を述べ、兄様にエスコートされながら優雅にパーティーの輪の中に加わる。

 彼女の言葉を借りるなら『モブ王女』らしい私は未だ婚約者の一人もいない。だから先に卒業している兄様にエスコートをされているわけだ。

 彼女は少しソワソワしているけれど、このままなら何も起きないかなあと思っていたら……ヤツによって引き起こされた。


「アリシア・ファーマン侯爵令嬢!貴様との婚約を破棄する!!」


 辺りが一瞬にして鎮まり、アリシア・ファーマン侯爵令嬢に視線が集まる。

 そんなことはお構いなしに婚約破棄なんて言葉を口にしたのは王位第一継承者であり彼女の婚約者、ライル・フィル・ファティシアだ。

 まあ、つまりは私ルティア・レイル・ファティシアの異母弟なわけだが……ヤツはピンクブロンドにピンク色の瞳をうるうるさせ、胸をバインと強調させた

 ドレスを着た女の子の肩を抱き寄せていた。

 おい、愚弟よ。お前とその女の子は学年が同じだが、今回の卒業パーティーに関係ないだろ?と眉を顰める。関係あるのは彼女の婚約者の弟のみ。なのに何故一緒にいるのだろうか?

 彼女の言うシナリオの強制力と言うものかもしれないが、私は震える彼女の前に立ちビシリと扇をヤツに向けた。


「良く言った愚弟!その言葉に二言はないな!!」


 まさかここで私が出てくるとは思わなかったのだろう。

 ピンクブロンドの、他称ヒロインは目をまんまるくさせ私を見ている。

 思い起こせば————彼女の言うシナリオとやらに立ち向かい、私達は良くやったと思う。


 今日はその集大成だ。



 ***

 あれは10年前まで遡る。


 当時8歳だった私にお友達を作ろうと高位貴族の中から歳の近い令嬢が集められ、王城の庭園でお茶会が開かれた。

 所謂取り巻き、と言うやつだ。その中に彼女もいた。


 アリシア・ファーマン侯爵令嬢


 金の髪に少し吊り気味の紫の瞳。とても愛らしい女の子だったが、彼女は私への挨拶もそこそこに会話の中には混ざらずポツンと一人で佇んでいた。

 私は何となく気になって彼女の姿を視界の端に入れていたのだけど、どうやら彼女は極端な人見知りのようで話しかけられないように隅へ隅へと寄っていく。

 何とも珍しい子だと見ていたら、一つ違いの異母弟ライルがお茶会に乱入してきたのだ。

 ライルと鉢合わせた彼女は驚きのあまり悲鳴をあげ、そして気を失って倒れた。私は慌てて彼女の側に寄り、倒れた彼女に何かしたのかとライルに問いかける。

 彼は何もしていない。自分の顔を見たら悲鳴を上げて倒れたと言った。

 確かに私の目にもそう写ったので嘘ではないだろう。

 私は従者に彼女を部屋に運ぶように告げ、その日のお茶会を解散とした。


 彼女の様子を見に行こうと客室に向かっていると3つ上の兄ロイ・レイル・ファティシアと鉢合わせる。

 ロイ兄様と私は側妃である同じ母から生まれた兄妹で仲もとても良い。さっきお茶会に乱入してきたライルとは仲良くしたいと思っているのだが、正妃であるリュージュ妃の影響で難しかったりするのだ。

 側妃の子供と一緒にいたら悪い影響が出るとか……多分、ライルを王位につけたいからだろうけど、子供の教育にはよろしくない。


「やあ、ルティア。お茶会はどうだった?友達はできそうかい」

「まあお兄様。私、普通のお友達が欲しいのよ?取り巻きじゃないわ」

 そう言って口を尖らせれば兄は苦笑いを浮かべる。

「わかってるわ。これはワガママなのよね?本当の友達なんて王女にはできっこないもの」

「そんなことはないよ」


 慰めてはくれるけど、私と兄様の先行きはあまり良いものではない。

 側妃である母はこの世にはなく、いたとしても伯爵家なので後ろ盾としてはとても弱い。

 そんな私のお友達になってもあまり得はないのだ。

 なんせ兄様は私より3つ上なのに婚約のこの字も出てこないのだから。


「ところで、これからどこに行くんだい?」

「お茶会の途中で倒れてしまった子がいるの。その子の様子を見に行くのよ」


 そう言うと兄様は一緒についてきてくれた。

 客室に寝かせされていた彼女はなんだか酷くうなされていて、バッドエンドはイヤ。断罪ルートはイヤ。と呟いている。


「……悪い夢を見ているなら起こした方がいいかしら?」

「そうだね。なんだか酷く顔色も悪い」

 私は彼女の肩を揺さぶり彼女を起こす。

「ねえ、起きて。起きて。怖い夢から覚めましょう?」


 彼女は涙の溜まる瞳を開きジッと私の顔を見つめる。

 そして「モブ王女……」と呟いたのだった。

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