【第002話】呪国物語

家電、ゲーム、漫画、服、ありとあらゆるものがココには揃っている。


グレイは現在ジャンクショップを訪れていた。家電コーナーと漫画コーナーを一通り見た後、最後にゲーム―コーナーに向かう。



ジャンク品ってなんかこう、普通の中古品とは違ったわくわくがあるよな。買うよりも見て楽しんだり、パーツ目的で本体ごと買ったりさ。



そんなことを考えながら、ゲームコーナーを物色していると、ゲーム―コーナーの端に袋に入れられたゲームソフトが吊り下げられているのが目に入った。その中に、やたらと気になるゲームソフトを発見し、そのソフトを手に取り観察する。


値段は100円。形状はCDタイプ。ソフトの規格は某有名ゲーム機のようだ。傷は無い。保存状態も良さそうで掘り出し物感がある。しかし、タイトルだけが消されていて何のゲームなのか不明である。


いいじゃないか、こういうのが面白いんだよ。持って帰って起動するまで分からないこのドキドキ感、最高だぜ!!


そのゲームを手に取りウキウキしながら会計に向かった。



会計を済ませたグレイは足早に自宅に帰る。自宅といっても城に併設されている宿舎だが。ちなみに毎日、城の執務室にゲーム機を持って行っているが、隠蔽魔法で周囲にバレないようにしている。


宿舎に帰ったグレイは、ゲーム機から『魔王撲滅!!ぼこぼこ魔王叩き!!』を抜き取り、買ってきたソフトを入れ、電源ボタンを押した。



―――呪国物語———


起動した瞬間、唐突にゲームタイトルが表示される。制作会社などの表示は一切存在しない。


こんなゲームがあるのか。誰かがオリジナルで作ったのかな。こういうインパクトは好印象だ。ホラー感が高まってメチャクチャ良い!!


そんなことを考えながらスタートボタンを押す。





―――あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛゛あ゛゛あ゛゛あ゛゛あ゛゛あ゛゛あ゛゛あ゛゛あ゛゛あ゛゛あ゛゛あ゛゛あ゛゛あ゛゛あ゛゛あ゛゛あ゛゛あ゛゛あ゛゛あ゛゛あ゛゛あ゛゛あ゛゛あ゛゛あ゛゛あ゛゛あ゛゛あ゛゛あ゛゛あ゛゛あ゛゛あ゛゛あ゛゛あ゛゛あ゛゛あ゛゛あ゛゛あ゛゛あ゛゛あ゛゛あ゛゛あ゛゛あ゛゛あ゛゛あ゛゛あ゛゛あ゛゛あ゛゛あ゛゛あ゛゛あ゛゛あ゛゛あ゛゛あ゛





部屋に亡者のうめき声がこだまする。


グレイの目はうつろになり、TV画面は真っ暗になった。ゲーム機も起動を停止してしまい。部屋の明かりも消えてしまう。


…。

……。

………。




どのくらい時間が経過しただろうか? 何事もなかったかのようにTV画面がつく。同時に部屋に起きていた異常の全てが改善される。グレイの目にも生気が宿り、その目はTV画面を注視している。画面にはニュースが流れており、少しだけ気になるニュースだったようで、それを少しだけ見た。そのニュースが終わると、画面を切り替えてゲームを起動する。


―――魔王撲滅!!ぼこぼこ魔王叩き!!―――


ゲームが始まり画面が移り変わる。画面には大きなハンマーを持った勇者と地面に空いた穴から頭を出す魔王が表示されている。


いけね、忘れてた。


ストップボタンを押してからコントローラをおいて、立ち上がる。


冷蔵庫からコーラを、棚からポテチを取り出しテーブルの上に乗せ、何事もなかったかのようにゲームを再開する。





ゲームをしばらく楽しんだ後、風呂に入り、歯を磨き、ベッドに向かう。


ベッドに入る直前。定期連絡を思い出したグレイは、送るとすぐに消える報告書を空間魔法で取り出した。


特に悩むそぶりもなく、5秒ほどで書いて送り、眠りにつく。



その様子をじっと見つめる者がいた。








数日後。


ある男の後ろに不機嫌そうな顔をした男が腕組をしながら佇んでいる。顔には生気がなく、やつれており、目の下には大きなクマがある。彼が目線を下側に向けると、相も変わらずポテトをつまみながらコーラをがぶ飲みし、ゲームをしている人間の姿が映る。


(憑りついた直後は、憑りつく人間を間違えたかもしれんと思った。しかし、観察してみればこれほど俺におあつらえ向きな人間も……。いや、魔族もいまい。)


不敵な笑みを浮かべるが、彼がこの世にとどまっていられる時間はもう長くは無い。


(君に変わって、私が魔王様に報告してやろう。報告は嫌いだろう?)


そうして彼はグレイの体の中に入っていき、残っている全ての力を使い肉体を支配する。悪霊からの侵入を受けた体は数秒ほど痙攣すると全く動かなくなった。


今日は彼が憑りついてから2回目の定期連絡日だ。今か今かと待ち望み、ついにこの日がやってきたのである。

……

………。



しばらくして、グレイが動き出す。そして、額に手を当て天を仰ぐようなポーズをとった。


「ふふふふふ…… ふははははは!!」


その顔は、醜く歪んでいた。








「魔王様、グレイから連絡が届きました」


「……。」


「いかがいたしました?」


「いや、あいつちゃんと報告しないじゃん。毎回変なこと報告してくるか、異常なしって報告してくるかだしさ…」


面倒そうにしながらも報告書を手に取る魔王。


直後。


魔王の目は見開かれ、顔は驚きに染まった。


「え? なにこれ、スゲーぎっしり書いてあるんですけど。キモいほど書いてあるんですけど」


そこには財政状況から、城の隠し通路まで事細かく、国家機密が記されていた。


「いや、あいつ分かってる? 俺たちは人間の国滅ぼしたいんじゃないからさ、勇者が無駄に派遣されないように阻止したいだけだから。まあ勇者育成の関係上、財政は少しだけ関係するとしても、隠し通路は関係なくね? それにさ、王様の弱点とか可哀想じゃんふさふさな髪の毛が実はカツラですって、そりゃあ公表したら精神的ダメージだけどさ… ん? 城の至る所に爆弾を設置したのでいつでも起爆できます…… 城を攻める際に内部からも援護いたします…… って危なっ!! あいつ何してんの!? なんか知らんけど思想が過激になってるんですけど、怖っ!!」


やっと1ページが読み終わる。


それから、全100ページにわたる報告書を全て読んでいく魔王。全てが王国を物理的にも精神的にも破壊するための情報になっており読んでいて頭が痛くなってくる。もはや破滅の書だ。


そんな、破滅の書を読み進めていく中で重大な情報が1つだけ存在した。


―――勇者召喚について


「そうそう! こういう報告が欲しかった! で、いつなんだ?」


何回も報告書とカレンダーを見比べる魔王。


日付を確認すると明日だった。


「明日ぁ!? ま、まあ、今日この情報を知ったならしょうがないけれどさ… って!! 勇者召喚決まった日、結構前じゃねえか!!」


定期的に連絡があるので、この期間なら情報漏れはないはずなのだが。おかしなこともあるものだ。そんな中、魔王が何かに気づく。 


「あれ?この日付…… 確か前に報告受けた日だな。おい、この日付の報告書を持ってきてくれ!!」


報告書に記載された日付を確認し、通信使がファイルをめくっていく。望みの日付が見つかったようで、めくる手を止めた。


「こちらが、その日付の報告書になります。」


手渡された報告書に目を通す魔王。



———私は無事にファイナルクエスト1をクリアしました。

そして次にプレイするゲームを決めなければなりません。候補はファイナルクエスト2とドラゴンファンタジー1。

どちらにするか最後まで悩んだ末、ここはやはり同じシリーズを全部クリアしてからドラゴンファンタジーをすることに……。

ですが、ここで大事なことに気づきます。古い作品ほどグラフィックは粗く新しい作品ほど綺麗になるのです!! 危うく罠にかかるところでした。それを考えた上でドラゴンファンタジーを……。 


しかし、ここで新たな問題が発生しました。


人間界にはこれ以外にも沢山ゲームがあるのです!! その沢山のゲームから1つを選ぶことなど俺にはできない。

魔王を玉にして打ち出すピンボール!! 魔王をいっぱい並べて、そこに丸めた魔王を投げ、どれだけ破壊できたかを競うボウリング!! 人間が魔王に跨って競争する競魔!! 上からスライムが落下してきて、それをご飯の上にのせて魔王の口に投げ入れるゲームも捨てがたい!!


そして、悩みに悩んだ結果。


勇者が裸の魔王を振り回しながら宇宙人と戦い、国を守るゲームに決定しました。


―――――ps.体重が2キロ増えました。





「ああ、この報告の時か! ゲームの話しばっかり書きやがって。ps.のところにでも良いから体重と一緒に書いといてくれよ! いや、本来本文に書くべき内容だけどもさ!!」


もう穏便に勇者召喚を止める手立てはないだろう。グレイが起爆スイッチを押せば止まるかもしれないが。


「くそっ! もっと早く分かってれば何か阻止する手だてがあったかもしれないのに……。」


悔しそうに報告書を握りつぶす魔王の姿がそこにあった。

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