第3話

手帳のことで。


と言われた俺はドキリとした。

そんな事言われたら今、昼飯中でちょっとダメでも話を聞かざるを得ない。


廊下に出た。


角まで来るように促され、指示に従う。

ユーコは周りに誰もいないことを確認すると

俺の目の前に、


「じゃん!」


と手帳を取り出してみせた。


「これ、山吹くんのだよね?」


「あ、いや、、、」


「俺のじゃない」


しらばっくれようとした。


だが、しかし。


「嘘ばっか。私ね、朝一、

山吹くんの背後歩いていてね、

ちょうどズボンの後ろポケットから落としたところ、見ちゃったの」


「な...」


その時。

どうして声をかけてくれなかったんだよ...


「その顔は、どうして声をかけてくれなかったのよ?って顔ね!」


スケスケだな俺の心。


「ああ...」


「気になってる男子の手帳、何書いてあんのかなって思ってさ、ちゃっかり中身、見ちゃおって思ってさ...」


「気になってる男子...?」


それってまさか..俺のこと...


「それってまさか、の、そのまさか、だよ!」


ふふっとユーコは上目遣いで笑ってみせた。


本当に透けてる、俺の心の中、

見透かされてるな...


「好き」


「え」


「あのねー、貴方の描く絵が好きなの。

見てるとなんだか、心が浄化されてく感じ?

美術室に飾ってある貴方の水彩画、

確か、全国絵画コンクールで金賞取ったやつ

だよね?」


「生理中でイライラしてたんだけど、

絵を見てたらお腹痛いのもどっか飛んでいっちゃってさ...」


「そんなことある??」


「美術室に行くのが楽しくなっちゃった。

私、絵を描くのあんまり好きじゃないから

美術の授業は好きじゃないけど、

どうやら絵画鑑賞は好きみたい」


「それでさ、誰が描いたんだろ?

どんな人が描いたんだろ?と思って美術の先生に描いた人教えてもらって、山吹くんのこと観察してたら、カッコいいな、って思った」


「いや、俺なんか、顔、カッコよくないし、

運動も勉強もろくにできないよ」


「そーいうんじゃなくてだなぁ!!

電車でお年寄りに席譲ってたり、

両手に買い物袋持ってるにもかかわらず、おにーたん、疲れたーとか言った妹ちゃんみたいな女の子をスーパーの帰り道におんぶしてあげてたじゃない!」


おいおい。

俺、すげー、見られてたんだな。





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