始まり
前書き
本日投稿2話目です。ご注意ください。
◆
(……なんだ?)
草木も眠る丑三つ時。妙な胸騒ぎを覚えた幹也が、ぱちりと目を覚まして臨戦態勢に入る。
(アリスとマナは、いるな)
「すう……」
「ふみ……」
すぐにアリスとマナの状態を確認する幹也だが、この男はなぜか自分と少女達の手が繋がれていることに頓着しなかった。
「アリス、マナ、起きてくれ」
「ん……?」
「んにゃ……?」
熟睡している少女達を起こすのは忍びなかったが、幹也は繋がれている指を外して、少女達を揺り起こした。
「どうしたの?」
「おじさん?」
「動きやすい服に着替えるんだ。俺はちょっとテレビを見てる」
「うん」
「分かりました」
唐突に起こされて着替えろと言われた少女達だが、幹也の真剣な目と今までの信頼から文句の一つもなく頷いた。
(何があった?)
『私の関知網に異常はありません』
寝室を後にしながらマスターカードに問う幹也だが、マスターカードはなんの異常も検知していなかった。
(とにかくテレビを……)
『衛星軌道上で漂うナット星人艦隊の残骸から発せられる信号ですが、専門家の一部からは救難信号に似たものではないかと』
(これか)
緊急で行われている放送を見た幹也は、胸騒ぎの正体を突き止めた。
(増援が来るか……だが今更救難信号?)
『残骸の改修中にどこかのボタンに当たりましたかね』
救難信号と聞き増援の心配をする幹也だが、少々疑問なのは数か月も前に壊滅した艦隊の残骸から、今更救難信号が発せられたことだろう。
(だが貴明がいるなら滅多なことは起こらないはずだ)
『信頼してますね』
(うるさい。だが、ここのあいつはどれだけ力を持ってる?)
『さて』
このホテルでコンシュルジュをしている貴明は幹也のマスターカード由来ではなく、本体の自分と意識が繋がっているこれまた本体ともいえるは言えるのだが、幹也は彼が力の全てを持っているとは思えなかった。
「あれ!?」
「どうした!?」
そんな時聞こえたマナの叫びに、幹也は慌てて部屋へ向かった。
「あ、ごめんなさいおじさん。なんだか一瞬、私の姿が鏡に映ってない気がして」
「鏡?」
するとそこには着替え終わったマナが、姿見鏡の前で戸惑っていたが、特におかしなところはなかった。
「なんともないわよ?」
「だよね」
「いや、なにがあるか分からん。逆に向けておこう」
横から鏡を覗き込むアリスと振り返ったマナは首を傾げるが、幹也はなにが起こるか分からないと、姿見鏡の向きを後ろに変えた。
「それで何が起こったの?」
「例の宇宙人艦隊の残骸から、なにかしらの信号が送られ始めたらしい」
「それって……」
「増援がくる……?」
「それも分からん」
(いや待てよ? 起こったことに対する救援じゃなくて、起ころうとすることに対しての自動救援信号じゃないのか? それなら今更信号が発せられたことに説明がつく)
『例えば?』
(例えば、そう……なにかが来てるから助けてくれ?)
「幹也あああああ起きてるかあああ!」
「貴明!」
どんどんと煩くドアを叩く腐れ縁だが、こういう非常時には頼りに、なるようなならないが、とにかく幹也は急いでドアを開いた。
「衛星軌道に宇宙船がワープしてきたぞ! やべえやべえ!」
「なに!?」
まだニュースにはなっていなかったが、貴明の目には確かに宇宙空間に佇む複数の船を見つけていた。勿論貴明にとって初の体験で、どこかテンションがおかしかった。
「しかも親父の会も急に消えたし訳分からん!」
「……」
その上さらに、ホテルで無断滞在していた3人組までいつの間にか消えていた。
「きゃっ!?」
「ひうっ!?」
「どうした大丈夫か!?」
『特定。地球規模で特定精神波を探知する調査波を確認。ナット星人がアリスとマナを探し出したものと非常に酷似しています』
(くそったれまたか!)
頭を抱えて蹲ったアリスとマナを心配する幹也は、二度も起こるであろう事態に怒りを燃やす。
「あー、こっちに来てるな。揚陸艇? 上陸艇? って奴か。今の俺の力じゃ直接見ないといけないからよ。お前とお嬢ちゃん達はここにいろ」
「悪い貴明。頼んだ」
「おーう。あ、そうだこれ」
「うん? ってこれお前!?」
ホテルの室内にも関わらず、天井を見上げてやって来る一団を認識した貴明は、直接目で確認するため部屋を出ようとしたのだが、思い出したように立ち止まって体からそれを引き抜くと、幹也に投げ渡した。
「日本刀じゃねえか!」
鞘に収まってはいるものの、その柄と鍔を見ればなにかは一目瞭然。そう、日本刀である。
「ここで売ってたからよ、ちょっとくすねてきた。使うことはないだろうけどな」
あるいは何かの予感だったのか。態々実物を幹也に渡したのは。
『緊急! 類似現象【きょ】』
それだけ言ってマスターカードは沈黙した。
「きゃああああ!?」
「なんだ!?」
ホテルのパーティー会場の外壁が泥となり大きな穴が開いた
「ば!?」
馬鹿な。そう言おうとした貴明の体が泥となって崩れ落ちた。
「ごぼっ!?」
「大丈夫!?」
「おじさん!?」
急に咳き込んだ幹也を心配したアリスとマナが、彼の顔を覗き込む。そこには。
「ああ!?」
「そんな!?」
少女達の絶叫。あった筈の幹也の眼球が泥として崩れ、彼女達からは見えなかったが、第二の心臓も同じく崩れて幹也を咳き込ませる。
この日。世界から異能が、神秘が消え去った。
『突入! 特定精神波を確保しろ!』
そして窓が割られ……。
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