【完結】異世界帰りがカードで頑張る現実生活~でもなんか地球も変じゃね?~

福朗

リターン

「あいたっ!?」


痛ってええええ!? 頭打ったあああ!

いや、それより何処よここ!?

今度はどこだ!? 大穴の中か!? 宇宙か!? それともタールの中か!? はたまた他のデンジャラスゾーンか!?


ああ!? 頭がやたらと痛いと思ったら、この地面コンクリじゃねえか! 血が出たぞ!


いや待て落ち着け。これがコンクリなら、ある程度文明があるところに飛ばされたってことだ。いや待て待て、これコンクリじゃなくてアスファルトだ。ってことは道路か。はあ。今度はどんな……!? とまれ? とまれ!? 日本語!? マジか!? それなら!?


「カード!」


出た! 出た出た出た! 俺の能力! 俺のカード! 今までどの異世界じゃ使えなかったのに使えるってことは!


「帰ってたぞおおおおおおおお!」


地球に! 故郷に! 日本に帰ってこれたああああ!



ネオン煌めく夜の繁華街で、年の頃は20代後半から30代前半と言った男が歩いていた。見た目はぼさぼさの髪、濃い隈、汚れたコートを纏うその男が金を持っていると思われるはずもなく、店の前に立つ客引き達もあからさまに無視していた。実際彼等は正しかった。なぜならこの男……。


(こ、戸籍が無えええええええええ!)


住所不定無職だったのである。

彼はある理由で10年以上日本を離れていたのだが、その離れ方が問題だった。


当時トンネル崩れに巻き込まれた彼が必死に岩をどかして地上に出ると、そこは異世界だったのである。


全く意味が分からないが、問題なのは彼が自転車に乗ってトンネルに入った所をばっちり監視カメラに録画されていたことで、救助隊が探せども探せどもいない彼は、天涯孤独で捜索者がいなかった事もあり、死亡者として扱われ慰霊碑まで建てられたのである。


つまり彼は戸籍無し、住所無し、学歴なし、資格なしに加えて、職歴が10年以上空白と言う、とてもでは無いがバイトの面接にも行けない履歴書の持ち主で、日本に帰って来てから収入のしゅの字も無いのだ。


そんな彼が帰国後の一週間、どうやって生活して来たかと言うと。


「すいませんお会計お願いします」

(神様ごめんなさい。生きる最低限度しか使わないんで、どうか許してください!)


なんとこの男、金なんて自動販売機の下にあった10円数枚しか持ってないにもかかわらず、コンビニエンスストアに入店して、水とおにぎりをレジに持っていたのだ。


「お会計の方法はどうします?」


「……カードで」


「畏まりました」


男が取り出したのは不思議なカードであった。真っ黒なカードで、カード払いと言ったにも関わらず、なんの企業のロゴも入っていなかったのだ。

しかし店員はそれを不思議に思う事なく、会計も滞りなく済んでしまった。


「ありがとうございましたー」


「……ありがとうございました」

(ほんとにすいません! これが最初で最後にしますんで!)


マニュアル通りの礼を聞きながら、男の内心は罪悪感でいっぱいだった。それも当然だろう。レジでの会計は確かに済んだが、実際には何の金も振り込まれることはないのだ。


(やっぱ"マスターカード"で直接金をどうこうするのはだめだ。堕落する。つうか神様がこっちもいたら天罰食らう)


ポケットの中へ突っ込んだふりをしながら、彼の言う所の"マスターカード"を消し、これからの生活をどうするか悩み始める。王権神授説どころか、実際に神様指名制を見てしまった彼からすると、悪い事には罰が当たると考えるのは至極当然だったため、本人の気質もあり、必要以上にこの生来生まれ持った異能を悪用しなかった。


(そうだ! あの人呼べばいいじゃん! 戸籍さえ適当に作って貰えたら、あとは何とか生活できる! メモリーカード!)


消し去ったマスターカードを再び取り出すと、真っ黒だった表面には細かな文字がびっしりと浮かんでいた。


(えーっと、召喚の条件と触媒は。世界一のスパコンんんんんんんんんん!? 準備できるか! そもそもどこにあるんだよそんなもん!? ま、待てよ!? 命の危険があるときに呼ぼうとしてたあの人らは!?)


なにやら愕然としている男は、まるで画面をスクロールするかのようにカードの表面を触れていく。


(だ、ダメだああああああああ!? 召喚条件きっつ!? 何だこれ!? 触媒はないに等しいのに、条件がトンでもねえ! 実質あの人ら呼べねえじゃん!)


彼にとって、命の危機がある時にのみ発動しようとしたその能力、"メモリーカード"による特殊な人物達の再現は、条件と触媒の2つがあって初めて発動するが、彼が"ワイルドカード"として思っていた人物はどれもこれも制限が非常に厳しく、このままでは本格的にホームレス一直線であった。


(どうすんだよマジで!? 裏稼業!? 日の当たらない世界で過ごすんか!? せっかく日本に帰って来たのにあんまりだ! ん? んん?)


もうなりふり構わず、通用しないこと間違いなしの、実は生きてましたてへ。作戦すら頭に浮かんだ男であったが、視界の端に映ったものに足を止め、わなわなと震え始めた。


(こ、こ、これだああああああ!)


慌てて先程とはまた違うコンビニに駆け込み、もう使わないと決めた手段で必要な物を買うと、ある程度酔っぱらって財布の紐が緩んでそうな人が通る場所に腰を下ろして、さっそく準備を始める。立地がいいだけあって、他のライバルも多い場所であったが、彼には勝算があった。


(えーとどうするか。さっきの人とおんなじでいいか)


先ほど買ったペンと紙で何かを書き終えると、満足してマスターカードをあるカードへと変えた。

そして男の前にはそのカードと書かれた紙が一枚。その中身は。




『タロットカード占い。20分3000円。恋愛、相性、その他色々。当たります』




これはこの男、斎藤幹也がなんとか苦労しながら生活する物語。


だけではなかった。

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