暗闇からの誘い

一色 サラ

暗闇の中から来た君を

 振り返ると、ホテルの明かりが遠くに見える。戻りたくない。逃げるように、ホテルの部屋から出てきた。夕食が終わって、しばらくすると、ずっと口論をする母と姉耐えられなくなった。


 あてもなく、見ず知らずの場所を歩いている。光がほとんどなく、暗闇の中、海に沿って堤防を歩いて行く。波の音だけが静かに、聞こえてくる。堤防の階段に腰を掛けて、暗闇の海を眺める。


 なんで、来てしまったのだろう。記憶のない父が亡くなったことを知って、姉が墓参り行くと言い出したのは3週間前だ。そんな姉を母はどにか制御しようとした。無関係だと思っていた私は、適当にその話を聞き流していた。


 父が亡くなって3年は経っている。親子3人で行こうって言われて、断ったが、14歳の私を家に一人にするわけにはいかないと母に言われて、付いてくることになった。

「ほんと、運転が荒いだけど」

 後部座席に座る4つ上の姉の荒げた声が響いていた。

「うるさい、じゃあ、玲香、あんたが運転しなさいよ」

 母が言い返していた。車を運転したこもないし、運転免許を持っていない姉は「うっせいババア」と反論はしてる。関りたくないので、私は助手席で、寝たふりを続けていた。姉は母との折り合いが悪くて、どこに行くにしても、あの2人は口論は続くのだ。

 

「こんなところで何しているの?」

同い年くらいに見える男の子が話しかけてきた。

「ちょっと、しんどいから、休憩しているだけ」

「そんなんだ。でも危ないいよ。ここは田舎だから、夜の8時なのに真っ暗でしょう」

「うん」

そうかもしれない。地元は海の近くにないし、街灯があちこちにある。でも、心地のいい感覚が先走っているのか、暗闇に怖さを感じることはなかった。

「隣に座ってもいい?」と聞いてきた男の子は、私の返答も確認することもなく、隣に座った。男の子は少し大きめのTシャツにズボンを着ていた。

「地元の人?」

「そうだよ。僕も少し休憩しようと思って、ここに来たんだ」

「嫌なことでもあったの?」

短髪で、少し長めの前髪が揺れた男の子は微笑んだ。

「そうかもね」

「何があったの?」

「親に怒られたんだよ。まあ、成績悪いしさ。何だろうね。」

「そうなんだ」

男の子は、海の方を眺めて、遠くを見ていた。

「そういえば、名前って何んて言うの?」

「ああ、三木明華です」

「明華って可愛い名前だね」

「ああ、ありがとう。で、君は?」

「僕?浩二」

「ふ~ん、平凡だね」

「そう、ありがとう」

沈黙が始まる。浩二と名乗って横にいる男の子は、何かしら海を眺めている。私の存在などなかったのように。

「明華は知らないと、思うけど、昔、この海で人が死んだんだ」

「なんで、そんな怖い話するの?」

「悲しいから、償いたくなるんだよね」

「そうなんだ。そろそろ、帰るわ」

浩二は怖い話をしているつもりなどないのだろうが、怖くなってきて、立ち上がって、ホテルに戻ろうと思った。

「なんで?もう少し居なよ」

「なんで、そんな怖い話されて、居れるわけないじゃん」

「そんなに、怖くないよ。ただ、親子が心中しただけだよ」

もうダメだ。この人は怖いものだと思っていない。ホテルの方に行こうとすると、「待って」と浩二に腕を掴まれた。その手に温もりを感じなかった。



 

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