帰り道、母親らに見守られて
子供らがプールに遊びに行ったらしい。叶が疲れて眠そうだから迎えに来てほしいと、颯から申し訳なさそうな連絡が届いた。
真美は、希子の隣でスマホをいじりながらため息を吐く。颯本人は真美に迷惑をかけるようなことをしたがらないのだが、自分でない人のことが絡むとこうして助けを求めてくる。もう少し母親を頼ってほしいのだが。
「真美、どうしたの?溜息なんかついて」
「ハヤちゃんから迎えに来てほしいってさ。叶ちゃんが眠そうで自転車乗れるか心配なんだって」
「……あらまぁ」
「どんだけ惚れてるんだかって話よねぇ」
「頑張ってほしいねぇ」
「「ねぇ?」」と二人顔見合わせ、声に出して笑い合う。
小さいころから希子と一緒に居るからか、彼女とは何も考えずに接することができる。普段ほかの人と接するのが大変なわけではないが、一番気の置けない友人だった。
「じゃ、迎えに行きますか」
「行ってらっしゃーい」
「あなたも行くのよ」
「ええ?」
「めんどくさがらないの。貴女の子よ?」
渋々と言った様子で立ち上がる希子に車のカギを渡し、先に家から出させる。自分は颯ら用にブランケットやら何やらを用意して彼女を追いかけた。
当然のように助手席に収まっている彼女にため息をつきながら、車に乗り込む。昔に希子が事故ってから、博人は希子に運転させようとしない。
別に博人が過保護なのはいいとは思うのだが、もう少し人間として成長させてもいいと思う。
「じゃ、車出すわよ」
「出発進行ー!」
「はいはい」
無駄にテンションが高い彼女に呆れる。そんなことを希子が気にするはずもないが、と思いながらも車を走らせた。
で、ベンチに仲良く座っていた彼らを拾ってきたのだが。
「叶ちゃん、熟睡だわね」
「そうなんだよな。かなり疲れたらしい」
「なーんでそんなに疲れてるのかねぇ」
「無理させたつもりはないんだが」
憮然とした瞳を此方に向けつつ、反論する颯。それを微笑ましく見つめる希子の隣で真美は、仲睦まじい彼らの様子を見れないことを少し悔やんでいた。
叶のかわいらしい寝顔でも視線に収めたくともできない。希子はずっと後ろを向いているらしいから写真を撮ってもらうよう頼んだ。
「何してるんですか、希子さん」
「真美が写真撮ってって」
「………なぜに」
「叶ちゃんのかわいい寝顔を拝むために決まってるでしょうな。息子の写真なんて有り余ってるんだから人に頼んで撮ってもらうほどじゃないわ」
「さいですか」
ぱしゃり、とシャッター音が聞こえ、希子がスマホを仕舞った。あとで愛でさせてもらおうと心に決めつつ、帰り道を急いだ。
希子は、すやすやと寝始めた颯を見て、微笑ましい気分に包まれていた。
「颯君も気持ちよさそうに眠ってる……」
「相当疲れたんでしょうね。ハヤちゃんはハヤちゃんで結構遊び盛りな部分あるから」
「後で話聞かなきゃね」
「そうね。ほんとに」
元より颯の肩に寄り掛かって幸せそうに眼を閉じていた叶と、今眠り始めた颯。
二人寄り掛かりあいながら眠る様はまさに恋人関係そのものだったのだが、なんでこうなってしまったのか。
どちらかが素直になれば済む話だと思うのだが、叶から聞いた話だと相当複雑なことになっているらしい。本人が気付くべきだと思ってるので、颯が完全に叶に惚れていることは話さなかった。
ナビが、自宅に近づいたことを知らせる。
後で叶から聞けば、ここまで疲れていた理由は颯にあるらしい。キャンプの時でも脱がなかった上半身が非常に目に毒だったと。
鍛えているのだといつか颯が言っていた気がするから、そういう部分で耐性が全くない彼女には刺激が強すぎたのだろう。
「もうほんとに、やばかった」という彼女の瞳はきらきらと輝いていて、どうしてこれで付き合っていないのかと、いつものように疑問に思うのだった。
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