第六話 冷たい真実、温かな涙

「ベレッタ…私はあなたが何を考えているのかよくわかります。そして…あなたの予想はきっとあっています」

「ベレッタは確かに、私が産んだ娘ではないわ」

 あの時感じていたことが当たってしまった。億が一を引いてしまった。うやむやだったことが確定事項となってしまった瞬間、私は永遠の闇の中に放り込まれた気分になった。母は母ではなかったのだ。視点が定まらない、どこを見ていれば良いのだろう。目の遣り場び困っていたその瞬間、母は私に抱きついた。

「確かに私はあなたの本当の母親ではないわ。ただ…私はベレッタのことを本気で愛してる。いままでも、これからも…ずっと。今までのあなたへの感謝の言葉は嘘じゃない。今までのあなたへの優しさは嘘じゃない。だから……」

「泣かないで…………」

 気づかなかった。いつの間に私は泣いているのだろう。でも、止まらない。母の温もりと鼓動を感じながら私は涙を流し続けた。なぜ泣いているのかわからない。悲しいから?悔しいから?虚しいから?訳も分からぬまま、ただ意に反して涙が流れ続ける。そして母は私の今までの不安を知っていたかのような質問を投げかけてきた。

「ひとつ聞かせて」

「なん…ですか……?」

「ベレッタは…この話を聞いてもなお私と一緒にいてくれる?まだ私を母として呼んでくれる?」

 母と目が合う。母の目は輝いていた。いや、違う。涙ぐんでいた。もう私はこれ以上耐えきれない。私は泣きながら頑張って声を振り絞った

「も…もちろんです。私は一生お母様と過ごします。それに……」

「お母様はお母様です…もしお母様が許してくれるのならば、私は本当の子じゃなくてもお母様の娘として生きていきます。お母様の娘として人生を全うします…」

「だから…もう一度抱きしめてくれませんか…」

 今思うと恥ずかしい。十六にもなって抱きしめてなんて言ってしまった。でもスッキリした。不思議なことに「本当」の家族でないことを知ったのに…初めて「本物」の家族になれた気がした。そして再び母と抱き合った。

「お母様………大好きです」

「私もベレッタのことが大好きよ」

 私は再び涙を溢れさせた。

 そうしているうちにすでに夜中の12時をまわった。母は先に部屋に戻って寝てしまった。今暖炉の前に座るは私一人だけ。私はぼんやりと暖炉の炎を眺めていた。火はいつもの大きさに戻っていた。私はもう冷めてぬるくなった珈琲を一気に飲み込んだ。ぬるい液体が体を通っていくのを感じた。そして大きく息を吐いた。

「これで…良かったのかな…?」

 この怒りにも悲しみにも喜びにも似ていないこの感情はなんと呼べばいいのだろう。でも間違いなく、この話を打ち明けたことは間違ってないはず。今日は寝坊してしまったのだから、明日は早く起きないと。暖炉の火を消す。部屋が一気に暗くなった。私は二階へ行き、ベッドに潜り込んだ。かなり疲れていたのか、すぐに眠ることができた。その日は久しぶりにゆっくり寝られた。

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