第23回+ ヂェンリィ、夢を見る

 ヂェンリィは、尿意に目を覚ました。

 母についてきて欲しいけれど、隣の寝台は空のようだった。


(また……)


 悲しい気持ちになりながら、独り、部屋を出る。

 幸いにも月が明るい。少しは怖くなくなった。


 そろりそろりと縁側を行く。

 やがて、ある一室の襖の隙間から漏れ出る光に気付いた。


 ヂェンリィが、嫌な気持ちで前を通ろうとしたとき、中から自分の名が聞こえた。

 母、チュミンだった。


「ねえ、あの子、ヂェンリィは上達している?」


 相手は、それに対しなにか答えたようだったが、聞こえなかった。

 ただ、内容からして、いまだ家に残ってくれている門人の誰かだろう。

 もう僅かなものだが。


「筋が良い? そう、良かった。独り立ちは、もう、できそう? 流石に、まだよね。いいの、もう少し」


 母は嬉しそうだった。


「メイフォンには……ううん、あなたは良くやってくれているわ。感謝しているのよ、本当に。わたしには、なにも出来ないから。だから、せめて、ね?」


 淫靡な水音、艶のある声が聞こえ始めてきて、ヂェンリィは足早にかわやへ向かう。

 辺りに、急に黒い霧が立ち込めてきた。

 地面が消えていく。落ちていく。


 思わず叫んだ。

「おかあさま! たすけて!」


 次の瞬間、ヂェンリィは、ハッと目が覚めた。


 昨夜、あんなにも降っていた雨は止んだようだった。

 隙間から日差しが入り、鳥の囀りが聞こえる。


 ヂェンリィは戸に近づき、見張りをしていたフゥシィに言った。


「代わるわ。あなたも、もう少し寝ておきなさい」


 彼は頷き、寝床に潜っていく。

 ヂェンリィは、静かに外へと出て、朝の澄んだ空気を苦々しく噛み潰した。


(もうすぐ連理に着くからって、あんな、昔の夢……)

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