第82話 勇者アーサー・リュミエール

 神器グラムを引き抜いたレイ。剣が放つ光に包まれた彼女は、気づくと見知らぬ場所に立っていた。鏡面と見紛う程の水面、血に濡れた足が少し浸かっている。不思議と血が湖に流れ出していくことはない。足元に気を取られていたレイは、目の前に立つ男の姿に気が付いていなかった。


「ごきげんよう、可愛いお嬢さん。いや、勇敢なる勇者殿。」

「……まさか、あなたは。」


 金髪の髪に透き通る碧眼。腰から下げられた輝く剣、そこに生々しく残る傷は、青年が潜り抜けてきた修羅場の数々を彷彿とさせる。しかし、それを全く感じさせない程青年の顔には、爽やかな笑みが浮かんでいた。


「俺はアーサー・リュミエール。言わずと知れた最強で最高の勇者。……そして最強の座を君に譲る者だ。」

「最強の座……?」

「君はエクスカリバーを引き抜いた。あの中身ぐちゃぐちゃのグラムからね。君には資格があったのさ、勇者となり、このエクスカリパーを引き継ぐ資格がね。」


 そう言ってアーサーはエクスカリパーを引き抜いて見せる。持ち主に呼応し、更に強く輝く剣。魅入られ、思わず手を伸ばす。気づいた時には、その柄に指先が触れていた。


「さぁ、手に取りたまえ。この剣で、君たちが守りたい未来を切り開け。」


 アーサーはエクスカリバーを水面に突き刺した。彼の手を離れたエクスカリバーからは輝きが消えていく。

 一歩退いたアーサーの代わりにレイは一歩を踏み出した。伸ばした手でゆっくりと、そしてしっかりと柄を握りしめる。


「……エクスカリバー。」

「さぁ、覚悟ができたら引き抜くといい。」

「私のご先祖。アーサー・リュミエール様……その御力をお借りします!!」


 両腕にかかる重み。剣そのものの重さではなく、勇者という称号を受け継ぐということ自体の重さ。

 重圧に逆らう形で今、剣は引き抜かれた。その輝きは世界を再び純白に染上げていく。

 

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