第45話 能力の使い道
戦闘が終わり、街に戻る。そこまで時間もかからない単純な作業、その筈だった。
「あぁ~。やっぱり仕事終わりの一杯はたまんないね~。」
それが残念、このざまだ。清廉な聖女様は一瞬にして酒を口に運び、地面にどっかりと腰を下ろしている。さっき見えたのは俺の幻覚だったのかもしれない。
「何やってんですか、帰りますよ。」
「あっはは、冷たいなー。これでも一番活躍したっていうのにさー。」
「はぁ……。それはそうですけど。……ていうか、さっきの魔法は?」
「んー?あぁ、酒魔法のこと?」
「酒魔法?」
「体内の酒を魔力に変換して発動する魔法。『転転天地』もそうだけど、分かりやすいのはあれ。」
「しゅしゅしゅうらん、でしたっけ。」
「そう『酒酒醜乱』。私の酔いをそのまま目の前の相手に付与できる魔法なの。」
「なる、ほど。」
名前のインパクトはあるんだけど、それをどう評価していいかよく分からない。相手を酔わせるってどれ位強いんだ?
俺のポカンとした顔を見たフォクシリアはこれ見たりというように口元を緩ませた。
「ははん、その顔は分かってないねー。一瞬にして相手を大量の酒を飲んだ状態にする、この魔法の強さが。」
「それって急性アルコール中毒的なやつ、ですか。」
確かに死に至る可能性もあるわけだし、強い……かもしれない。っていうか、そんなになるだけ飲んだら自分の身の方が危ないんじゃないのか。
心配を含んだ視線を向けるものの、当の本人はいたって平然としている。
「ん、そうなんじゃない?知らないけど。」
「言い出したの、そっちなんですけど……。」
「聖女はー簡単に秘密を口にしないの。それよりも、私はツカサ君の魔法の方が気になるねー。」
「マンドラゴラ作るだけですけどね。」
インパクトはあるけど、イマイチ戦闘で生かしきれてないんだよな。人が周りにいると使えないし。
「何その卑屈そうな顔。まぁ、確かに筋力、魔力も平均かそれ以下っぽいし、ツカサ君弱っちいもんねー。」
「心はガラスだって知ってます?」
分かっててズカズカ踏み込んでくる聖女様。軽く言われただけでも俺の心はオーバーキルだ。
「でも、その魔法は面白いよ。」
「珍獣扱いですよね。」
見ていて面白い、それは珍獣扱いだ。物珍しさなら一番の自信はあるが、その扱いはちょっとキツイ。
「いやいや、私は聖女。迷える子羊は放っておかないのさ。」
「……話が見えて来ないんですけど。」
羊よりも酒を放っておかないような気がするんだけどな、この聖女様は。
「十人十色、人には人の戦い方があるってことだよ。」
「それ、マーリンにも同じこと言われた気が……。」
マーリンはそう言ったきり結局、戦闘系の魔法とか教えてくれなかったしな。まさか同じことを言われるとは。
フォクシリアは俺の言葉に目を丸くした後、その口に酒を運ぶ。
「なんだ、じゃあわざわざ聖女っぽく振舞わなくても良かったかー。」
「っぽいっていうか聖女ですよね。」
一人で宴を開いてるところからは想像もつかないけど。……そういえば、神に祈ってるとこも見たこと無いな。
「あっはは、細かいこと気にするなよ若人が。それよりも、そろそろ行こうか。」
「貴方が酒飲んでたんですけどね!!」
「まぁまぁ。これから聖女様が君の悩みを解決してあげようって言ってるんだ。黙って付いてきなよー。ひっく。」
「碌なものじゃなさそうだけどな……。」
千鳥足で先を行くフォクシリアの後を追いながら、俺達は教会前へと今度こそ帰っていった。
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