第16話 苦労騎士の鎧

#16.苦労騎士の鎧




 ここまで色々な不思議な経験をしてきたが未だ魔王を倒せる気がしない。

最強の剣や盾もカウンターがかなり減ってしまったし、他の不思議アイテムも使えなかったり使い切ったり置いてきたりと正直心もとない。

特に私の戦闘スキルは未だ序盤の街レベルの強さなので、魔王の所に辿り着くまでにやられてしまいそうな気がする。

そんな不安を抱えて歩いていると、いつもの店が現れた。


 私は商品をじっくりと品定めする。

これまでの様に変な商品を買っては時間もお金も勿体ない。

そして如何にも強そうな漆黒の鎧を見つけると、即買いする前に店員に説明を求めた。


「これはどんな商品なんですか?」


「これは苦労騎士の鎧ですねー」


「黒騎士の鎧!(なんか強そう!)。で性能は?」


「それは使ってみれば分かりますよ~」


またこれだ。

この店員はいつも詳細をはぐらかす。

そのせいで今まで色々とんでもない目に遭って来たのだ。

私は店員を逃がすまいと、店員の両手をがっしりとつかんだ。


「今日は逃がしませんよ!」


「あらあら」


しかしこの状況で余裕の笑みの店員だった。

それもその筈、掴んでる私の手の力がどんどん抜けていく。

立っているのがやっとなくらいヘロヘロになると、店員の両手は私の手から抜けだし、気付いたら姿が消えていた。

こんなのってあり?

店も店員も跡形もなく消え、その場には黒騎士の鎧と共に私が取り残されていた……

この時はこの鎧が魔王討伐の大きな第一歩になろうとは夢にも思わなかった。


 私は気分を切り替えてさっそくこの鎧を着る事にした。

サイズは若干大きめだがぶかぶかという程でもない。

でもその違和感が気に入らなかった私が少し後悔していると……


「着用者ヲ確認シマシタ。サイズヲ調整シマス」


「え?」


困惑する私。

そりゃあ鎧から声が聞こえたら驚きますよ。

その驚きの思考がまとまる前に鎧がシュッと引き締まった。

違和感も消えきつ過ぎず緩すぎず、まるでオーダーメイドされた様なぴったりなサイズだ。


「着用者ノ目的ヲ入力シテクダサイ」


「え?目的?魔王討伐だけど……」


「……着用者ノステータスガ目的達成ノ必要値ヲ大キク下回ッテイマス」


「そ、そりゃあ普通の女子高生だし……」


「コレヨリ、ステータス改善プログラムヲ開始シマス」


「え?」


鎧は私の意思を無視して私ごと鎧を動かすとそのまま走り出した。


「マズハ50kmノマラソンデ脚力ヲ強化シマス」


「50㎞!?」


1kmですら辛いのにその50倍ですと?無理無理絶対無理!

しかし私の意思が介入する余地はなく無理矢理走らされた。


 1.5㎞程走らされた時点で息切れする私。

それを察知したのか鎧は動きを止めた。


「はぁはぁ……やっと……休憩……」


「着用者ノ疲労ヲ感知。回復魔法術式展開開始……」


「え」


鎧の下に魔方陣が発生すると今までの疲れが嘘の様にふっとんだ。

あれだけかいた汗も消えていて凄く爽快な気分だ。


「着用者ノ疲労度回復ヲ確認シマシタ。訓練ヲ続行シマス」


「え!?ちょっと待って―」


その後は回復とマラソンを繰り返し行い、昼夜寝る事もなくぶっ続けで様々なトレーニングをやらされた。

筋トレやマラソンは勿論、イメトレから剣術の修行まで、魔王討伐に必要な訓練をひたすらひたすら行っていた。

鎧を脱げばいいって?脱げないんですよこれ!もしかしてコレ目標達成まで脱げないって奴なのでは?


「もう勘弁してよ……」


「着用者ノ精神的疲労ヲ感知。回復開始……」



 そんなこんなで数ヶ月が経ち私も立派な戦士になりました。

ラスダン前のトンネルを借りて危険地帯に移動する私。

ラスダン周辺の魔物相手にも互角以上に戦える様になったのです。

そして数体中ボス的な魔物を倒した瞬間の時の事です。


「着用者ノステータスガ目標値ニ達シマシタ。装備ヲ解除シマス」


「え、脱いでいいの!?」


私が脱ごうとする暇もなく、鎧は音を立ててガシャガシャとはずれていった。

もう何も言わなくなった鎧君。

私はようやく脱げた爽快感よりも、強くなった事よりも、鎧と関係が終わった様な気がしてちょっぴり寂しくなった。

その時私は鎧をよーく見るとこう書いてあった。


”苦労騎士の鎧”と。


は?苦労騎士?無理矢理苦労して無理矢理強くなれる鎧って事?

私はあの時の店員の言葉を聞き違えてしまったのだ。

しかし……


「黒い鎧に黒字で書いてあったら読めないでしょー!」


私の久々の怒号が異世界に響き渡った。


 まあ何はともあれ強くなったし、最強の武器も防具もあるし、こりゃ楽勝でしょ、と余裕の私。

そしてようやく魔王城に乗り込む事になったが、魔王の強さはそれを打ち砕く事となる……

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る