菊ヶ浜へ

目が覚めると、父の運転する車に乗っていた。私が目覚めたことに気づくと、父は「ほかの家族も後から合流する」と言う。

乗車しているのは私と父だけだった。


高速道路を走っていた。道は白く、左右の壁も白い。空も真っ白だった。そのため、真っ直ぐな道だと、道と空の区別もつきづらい。

時折、身体を水平に伸ばして、道がどこまで続いているのかを測った。

曲がりくねった道だと、道路がわかりやすいので安心する。


周囲を見ると、建物も広場も白い。田舎だとこんなものなのだろう。せめて、高速道路くらいはわかりやすい色合いにしてほしいものだ。


しばらく、そんな道中を続けたのち、私は父に問いかけた。

「ここはどこ?」

「広島だ。菊ヶ浜へ行くよ」


その言葉通りに、浜辺に来ていた。高架線があり、河辺のようでもある。それでも父は車を走らせ続けていた。

このまま海に沈み、死ぬ気なのだろう。私はなんとなく察していた。

ほかの家族も来ることはないのだ。私は父と一緒に死ぬのもいいと思っていた。


砂浜を走り、やがて車は海中に沈んだ。

その瞬間、私はシミュレートする。海に沈んで、どれくらい息が続くだろうか。ガラスを割れば脱出できるか、海から這い上がれるか。

見えた。現実に戻る。


私は窓ガラスを割ると、ぽーんと外へ出る。そして、車を持ち上げて、海岸に置いた。

海中にあったので、私の腕力でも持ち上げることができる。


そして、項垂れる父に声をかけた。


「あんたの弱さは、広島まで自力で来たことだ。それだけできれば、生きていけるだろ」

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